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過去のデータを覆し続けるイチロー。
42歳で果たした「V字回復」の裏側。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2016/07/03 11:00
2010年を最後に打率3割には届かずにいるが、今年はここまで3割をゆうにこえて3割4分の高打率を残している。
動体視力が衰えるはずの年齢で四球を増やす驚異。
イチローは年齢的なバイアスから、40歳のシーズン、ヤンキースで出番を減らされた。打順も下位を打つことが多かった。
マーリンズに移籍した41歳の昨季、前半戦は好調だったものの、シーズン終盤に失速して、打率は2割2分9厘にまで落ち込んだ。さすがに限界説が出てもおかしくはない。
しかし今季、イチローは再生した。
打率、出塁率、OPSで同じ年齢のローズを大きく上回っている。特筆すべきは三振と四球の比率で、イチローは16年間のメジャーリーグのキャリアの中で、四球の方が多かったことは2年目の2002年のシーズンしかない。
比較論でいえば、ローズは三振が少なく、四球が多い「打率尊重」型の打者だった。イチローはとにかくアグレッシブで、安打を積み上げるタイプだ。ふたりは安打製造機でありながら、内実はかなり違う。
しかし、イチローが42歳という動体視力が衰え出している年齢になって、四球が増えているのは驚くべきことだ。
おそらく、打席でのアプローチを変えたのだ。
45歳で100安打を打っても、もう驚かない。
今季の終わりまでを見届ける必要はあるが、イチローは42歳にして「V字回復」を果たしたのであり、今後どのような数字を残していくのか、予想がつかない分、楽しみである。
少なくとも、ローズは43歳、44歳でしっかりとした仕事をしている。イチローも出番がもらえれば、100安打以上は十分に期待できる。そうすれば、通算で3200安打までは到達するのではないか(おそらく3184本のカル・リプケン・ジュニアを超え、歴代14位あたりにまで食い込んでくるはずだ)。
そして45歳を迎えた時に、イチローはどんな選手でいるだろうか?
「僕は人から笑われるようなことを、達成してきました」
この選手には常識は通用しない。
45歳で100安打なんて、冗談だろう? というのがこれまでの常識である。
しかし、イチローがその数字に到達しても、もう私は驚かないと思う。