球体とリズムBACK NUMBER
18年前、世界98位だったウェールズ。
EUROベスト8、ベイルの冒険は続く。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byAFLO
posted2016/06/30 07:30
優勝候補ではない国で、圧倒的な存在感を放つ。ここまでのベイルの戦いには、チームメイト、ロナウドとの共通点も感じる。
悲劇の英雄になるよりも、泥臭くとも勝ち進む。
ベイルの直接FKで先制しながらも、終盤にジェイミー・バーディーとダニエル・スタリッジにゴールを奪われて、直接対決には敗れた。しかしその後ウェールズはロシアに3-0と完勝し、スロバキアと引き分けたイングランドを抑えて首位通過している。ウェールズ人(語源は異邦人)のプライドがこれほど満たされることも、ほかにあまりないだろう。
国民投票により“Brexit”(イギリスのEU離脱を意味する造語。今では“Bregret”と後悔する人も多いみたいだが)が決まった日の翌日、今大会2度目のUK対決となった北アイルランド戦では、ベイルの鋭いクロスがギャレス・マコウリーのオウンゴールを誘い、ウェールズが1-0で辛勝。今大会で最も退屈な試合とも言われる渋い戦いを演じたが、「華のない試合になることはわかっていた。でも今は最高の気分だ」と背番号11は意に介さない。
当然だ。スイスのジェルダン・シャキリのように圧巻のオーバーヘッドをぶち込みながらも敗退すれば、悲劇の英雄か大会を彩った好選手くらいにしかなれない。泥臭い得点でも勝ち進んでいくほうが絶対にいい。「ウェールズが準々決勝進出。夢のなかにいるみたいだ」とマニックスはつぶやいた。
戦力ではベルギーが上、だが……。
7月1日(日本時間2日早朝)に行われる準々決勝の相手は、ベルギーに決まった。欧州屈指のタレントを揃えるチームは、初戦のイタリア戦で躓いたものの、以降は3連勝。彼らとは予選グループBで同居し、1勝1分としたが、最終順位は相手が上だった。
不安はある。ラウンド16の北アイルランド戦で、主将のアシュリー・ウィリアムズが肩を負傷。この31歳のディフェンスリーダーを欠くことになればとてつもない痛手だが、クリス・コールマン監督は「本人は何も心配していない。きっと大丈夫だ」と前向きに話した。
客観的に見て、戦力値ではベルギーが上だ。1人で違いを生み出せるアタッカーの数は相手のほうが多い。しかしここまで見てきたように、今大会は個人能力よりも組織や団結、準備が特に問われる傾向にある。求心力のある戦術家コールマンのもとで結束するレッドドラゴン(ウェールズ代表の愛称)にも、もちろん勝機はある。