スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
問題児の帰還と大乱闘の背景。
大リーグに今も流れるマチズモ。
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2016/05/28 10:30
まるで漫画のような、という表現がしっくりくるクロスカウンター。見る分には珍しくて面白いが……。
メイウェザーも嫉妬しそうな右のカウンター。
両者は今年の5月上旬にも、トロントで4連戦を戦った。結果はブルージェイズの3勝1敗。だが今度の連戦は、舞台がテキサスだ。レンジャーズは復讐心に燃えていた。7回裏には、逆転の3点本塁打を放ったイアン・デズモンドが、バットを高々と放り投げた。ブッシュが与えた死球もその一環だったのではないか。
次打者エドウィン・エンカーナシオンをレフトフライに討ち取ったあと、ブッシュはジェイク・ディークマンにマウンドを譲った。ディークマンはジャスティン・スモークにゆるいサードゴロを打たせた。三塁手エイドリアン・ベルトレは併殺を狙って二塁手のルーグネッド・オードアに送球する。
このとき、オードアの足をバティスタが襲った。間に合わないのを承知の上というか、明らかにタイミングが遅れていた。新ルールに違反する危険なスライディングだ。体勢を崩され、一塁に悪送球したオードアは、すぐさまバティスタの肩を両手で突き飛ばした。さらに、憤然と向かってきた彼の左頬に、今度は強烈な右クロスを叩き込んだ。
映像で見ると、フロイド・メイウェザーも嫉妬しそうな右のカウンターだ。つぎの瞬間、両軍のベンチは空っぽになった。
いわば、無駄なマチズモ。
これほど派手な乱闘は、大リーグでも久しぶりだったのではないか。もちろん併殺が宣告され、バティスタとオードアはすぐさま退場になった。彼ら以外にもブルージェイズの主砲ジョシュ・ドナルドソンやレンジャーズのベンチコーチも退場処分を受けた。余震は収まらず、8回裏にはレンジャーズの先頭打者プリンス・フィルダーに死球を与えたジェシー・チャベス(ブルージェイズ)が退場になった。
少し整理してみよう。
ホームランを打って、バットを放り投げるのは、まあ許容範囲である。だが、故意の死球や危険なスライディングを仕掛けることは、ルール上も許されていない。それに対して右クロスを繰り出す蛮勇も過剰反応といわざるを得ない。いいかえるなら、無駄なマチズモ。
率直にいって、私は「野郎、腕で来い」という発想が嫌いではない。このメンタリティは、大リーグ草創期から球界に浸透していたものだ。ただ、単純なことだが、彼らは野球で腕を競うべきであって、危険球や危険な走塁や右クロスの炸裂などで勝負すべきではなかった。これが横行するようだと、野球は無法時代に逆戻りする。せっかくの才能が、不慮の事故で台なしにされることもありうる。だとしたら、あまりにも馬鹿げている。身体を張った勇敢なプレーと、粗暴でくだらないヴァンダリズムとの間には、やはり一線が画されるべきだと思う。