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世界王者が60年で10人から85人に!?
ボクシング界のビジネスと綺麗事。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAFLO
posted2016/05/23 07:00
スーパー王者と正規王者の対戦が進めば、井岡一翔にもエストラーダと戦うチャンスが訪れる可能性が高まる。
井岡一翔の上にはスーパー王者が存在する。
WBAの5月ランキングを見てみると、17階級中3王者がいる8階級、2王者が8階級となっている。フライ級は井岡一翔(井岡)が“正規”王者で、スーパー王者(正式には統一王者)にフアン・エストラーダ(メキシコ)、暫定王者にスタンプ・キャットニワット(タイ)が君臨する。「えっ、井岡の上にチャンピオンがいるの?」と驚いた人もいるかもしれないが、実際に存在するのだ。
ここで一点だけ付け加えておくと、日本ボクシングコミッションはWBAの暫定王者を世界チャンピオンと認定せず、国内での暫定王座戦の開催を認めていない。日本の主要メディアはこれにならい、日本人選手が海外で暫定王座を獲得しても、世界王者としてカウントしない方針をとっている。WBAへのささやかな抵抗と言えるだろう。
プロモーターと団体の思惑が経済面で一致する。
なぜ、このようなことが起きてしまうのか。
1つは、試合を主催するプロモーターと統括団体の思惑が一致する、という理由が挙げられる。統括団体はタイトルマッチの承認料を得て組織を運営している。つまりタイトルマッチがたくさん開催されればされるほど、懐は潤う。
一方のプロモーターは、集客やスポンサーの獲得といった面において、タイトルマッチの冠がついているほうが、ビジネス的に有利に働くのが一般的だ。各団体は世界王座以外に、ラテンアメリカ王座、北中米王座、アジア・パシフィック王座、インターナショナル王座、ユース王座といった数多くのタイトルを認定しているが、これも上記のような理由で需要があるからだと言えるだろう(地域王座も世界王座より安いとはいえ、認定料が発生する)。
WBAのヒルベルト・メンドサJr会長は昨年、海外メディアのインタビューに「タイトルは、大国の大きなプロモーターと契約している選手が独占してしまう。小国のボクシング発展のために暫定王座は必要なのだ」という趣旨の発言をした。
たとえば、コスタリカのブライアン・バスケスという選手は暫定王座を獲得し、その後“本物の王者”内山に挑戦してこてんぱんにやられたが、“同国初の世界王者”としてコスタリカのボクシング界をそれなりに盛り上げたと聞く。