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八重樫「生き残りました」の初防衛。
内山敗戦で気づいた崖っぷちの心。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2016/05/10 11:20

八重樫「生き残りました」の初防衛。内山敗戦で気づいた崖っぷちの心。<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

目は腫れ、まさに満身創痍。八重樫の戦いはいつもスリリングだが、それとはまた異なる危うさの試合だった。

大学の先輩、内山の王座陥落がスイッチを入れた。

 もう1つ付け加えるとすれば、日本のエース、内山高志(ワタナベ)が試合の11日前、12度目の防衛に失敗し、6年3カ月守った王座を失った事実だ。八重樫は拓大で内山の3年後輩にあたる。プロ入り後、フィジカルトレーニングを一緒にやっていた時期もある。八重樫にとって内山はあこがれであり、いつも大きな背中を見せてくれる存在だった。松本トレーナーは「内山が負けて、八重樫の心にスイッチが入ったのではないか」と指摘した。八重樫は少し間を置いてからこう答えた。

「それはあるかもしれない。やらなくちゃ、という気持ちにはなりました。内山先輩が負けて、その人がただいるだけで、支えてもらっていたということがわかりましたから」

 かっこいい勝ち方はできなかった。パンチで顔を腫らし、這いつくばってゴールするような、ギリギリの判定勝利だった。「生き残りました」という八重樫の言葉に、あらゆる思いが込められていた。

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