ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
壊れた右拳でKOを狙う余裕のV2。
井上尚弥、ロマゴン以外は問題外?
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2016/05/09 11:30
試合後に「足を使って、逃げ切って勝つならいくらでもできる」と豪語した井上。予想外のタフな試合は、むしろ良い経験になったはず。
結果的に敗北したカルモナの、秘めたる決意とは?
スコアは118-109が2人、もう1人が116-111で井上の勝利を支持した。敗れたカルモナのコメントが印象的だった。
「私はすべての力を出し尽くした。今夜の私ほどイノウエを苦しめた選手はほかにいない。私が12ラウンドにわたり、このような戦いをするとはだれも思っていなかった。だから私は試合前にあまりしゃべらないようにした。大事なのは最初の4ラウンド。ここを乗り切り、そこからは『絶対に勝てる』と信じて戦うつもりだった」
おそらくカルモナは、まったく期待されずにメキシコを旅立ったのであろう。「井上に勝てるわけがない」。そんな冷めた目で見た連中を見返すことが、この挑戦者のモチベーションになっていた。
カルモナは試合前の発言を極力控え、リングの中で己の秘めた決意を実行に移した。井上相手に逃げることなく、判定に持ち込んだのは大きな誇りだった。
試合後の取材では、顔面の右側を大きく腫らしながら、堂々とした態度を貫いた。ただし、井上が右拳を痛めていたことを報道陣から告げられたときだけは、「それは知らなかった……」と顔を曇らせた。
次回防衛戦は前王者との対決に。
大橋秀行会長によると、3度目の防衛戦は前王者、ナルバエスとの再戦が有力だという。前回は2階級アップしてのチャレンジで、11連続防衛中のベテラン王者を2回KOで一蹴し、世界を驚かせた。
ナルバエスとの再戦を問われた井上は「あれ以上の試合となると、すっごいプレッシャーですね。まずは勝ちに徹していきたいです」と答えた。
より強いインパクトを、より圧倒的な試合を─―。
左1本で世界1位を圧倒するチャンピオンは、自らに課せられる過大とも言える期待を楽しんでいるかのように見えた。