錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
クレーでこそ冴える錦織圭の意外性。
全仏の赤土に初の黒いウェアが舞う!
posted2016/04/30 10:30
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
AP/AFLO
人の印象とは移ろいやすいもので、ついこの間のマイアミまで誰も止めることができないと思われていた無敵のノバク・ジョコビッチは、モンテカルロ・マスターズで世界ランキング50位台のイリ・ベセリに敗れたがために、ついに失速かと囁かれ始めた。
昨年スランプからの復活はもうありえないと思われたラファエル・ナダルも、モンテカルロとバルセロナの2大会連続優勝により、一転してクレーコート・キングの復権とメディアは煽っている。
バルセロナで錦織圭はそのナダルに決勝で敗れ、3連覇に届かなかった。ナダルはこれで、クレーコートでの優勝回数49回という史上タイ記録に達した。現在63歳のギジェルモ・ビラスが1983年に最後の更新をした記録である。
大会のオフィシャルサイトから試合後の記者会見を聞くことができたが、「ナダルは完全に復活したと思うか」という英語の質問に対し、錦織は「Yeah」と答えるのに少し躊躇したように感じた。
「2、3年前からクレーでも自信がついてきた」
「ディフェンスはトップ選手の中でも1、2の力があるし、フォアに甘いボールを打ってしまったら一発で決めてくる。モンテカルロでも優勝していいシーズンを送っていると思う」と続けたが、決して手がつけられなかったわけではないという手応えがあったのではないだろうか。
多くのラリーで主導権を握って攻めていたのは錦織だったし、第1セットを先取されてからの第2セットも1-4とリードされながら一度は追いつく粘りを見せた。「あれだけ打っても(ナダルの防壁は)崩れない」と嘆く結果になったとはいえ、ショットの正確さと多彩さ、爆発力はクレーのテニスに対して目の肥えたスペインの観客をも魅了した。
先ほどのぼんやりとした〈印象〉の話をするなら、26歳の錦織に対して人々が抱いているものもまた、24歳のときにバルセロナでクレー初優勝、マドリードでマスターズシリーズ初の決勝進出を果たしてタイトル目前というところまでナダルを追い詰めたときほどの勢いではないだろう。しかし依然として、錦織がグランドスラムやマスターズシリーズを制するならクレーだと見ている専門家は少なくない。
錦織自身は、「僕が一番好きなコートはクレーじゃない。やっぱり得意なのはハードコート。でも2、3年前からクレーでもいいプレーができるようになって、自信がついてきた」と話している。