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ドラフト候補に150km投手が26人!
それでも田中正義の12球団指名は?
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/04/16 11:00
この時期に、ここまで「一強」感が漂うドラフトは久々。史上最高の9球団、そしてまさかの12球団指名はあるか。
大学リーグ戦に、全球団合計45人のスカウトが集結。
田中の先発が予想された4月5日の東京新大学リーグ戦、杏林大対創価大戦には国内全球団、45人のスカウトが集結し、田中の投球に熱い視線を注いだ。その中の1人、中尾孝義・阪神スカウトに「田中に全球団が1位入札するという記事が出てましたね」と振ると、「十分あるよ」と答え、「阪神も行きますか」と聞くと、「行かなきゃしょうがないでしょ」と答えた。
スタメンが発表される前に今成泰章・日本ハムスカウトがいたので「田中が先発ですか」と聞くと、「当たり前だよ、他に誰がいるのよ」と目をむき、永山勝・ソフトバンクアマスカウトチーフは「春先から調子がよくなかった」と言いながら表情に深刻さはなく笑みが漏れ、巨人は山下哲治スカウト部長をはじめ全スカウトが集結し、ネット裏はいつもと異なる躁状態に包まれていた。
永山氏が言うように、田中は春先から調子が上がらず、この日も9回投げ被安打4、奪三振12、失点3と満足できるものではなかった。序盤から杏林大各打者が高めのストレートを空振りするので、宮田善久・ソフトバンクスカウトに「あれは意図して投げているんですか、抜けているんですか」と聞くと、「抜けています」と即答、さらに「よくないです」と付け加えた。
それでも6回終了まで杏林大を無安打、無走者に抑えているところに田中の凄みがある。
やっぱり田中は凄いや、という余韻。
私はこれまで鬼頭洋(大洋)、松井光介(横浜高)、ダルビッシュ有(東北高)、一場靖弘(明治大)、浅尾拓也(日本福祉大)、竹内大助(慶応大)、加嶋宏毅(慶応大)、多和田真三郎(富士大)のノーヒットノーラン(一場は完全試合)を見ているが、2012年の多和田以降は遭遇していない。田中が9人目になりそうだと思ったのは、ボールの軌道が一定していなくても高角度から押し込んでくるストレートの圧力や、腕を振って投げ込まれるカーブのチェンジアップ効果が物凄く、前年秋リーグ戦5位の杏林大では打ち崩すことは難しいと思ったからだ。
しかし実際は7回に杏林大は内野安打の走者が挟殺プレーのスキを突いて生還、9回は1死後に四球、安打、三塁打が続いて2点を加えて追いすがるが、ここまで。スカウトとマスコミが熱い視線を送った田中正義の2016年開幕戦は、何とも言えない余韻を残して幕を閉じた。けっして満足感は得られない内容だが、やっぱり田中は凄いや、という余韻を。