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「戻った」萩野公介がリオ五輪内定。
伊藤華英が見出した“真のエース性”。
posted2016/04/05 14:00
text by
伊藤華英Hanae Ito
photograph by
AFLO
「4年前とは全然違いますね」
現在開催されている日本選手権。まずは400m個人メドレーでリオ五輪内定を手にした萩野公介選手は、決勝レース後に笑顔でこう答えた。
予選で、いきなり4分9秒80と日本記録に迫るタイムが出た。
スタート直後のバタフライでは1ストローク目に泳ぎの硬さがあり、少し緊張しているのかな、と感じた。しかし得意の背泳ぎに入ると隣のコースを泳ぐ瀬戸大也選手を突き放し、そこからは萩野選手らしい伸びやかな泳ぎに繋がった。特にラストの自由形は、高地トレーニングの成果が窺える素晴らしい泳ぎだった。
戻った。そう思った瞬間だった。
タイムも問題はない。本人にとっても、決勝へ向けて期待できる内容だったはずだ。
決勝のウォーミングアップに現れた萩野選手は、午前中の硬い表情とは一変して、柔らかく研ぎすまされた表情になっていた。
競泳選手にとって予選は大変重要で、その感覚が決勝レースを戦う上での基盤になる。きっと萩野選手は、予選の泳ぎで自信を手にしたのだろうと思わせる表情だった。
そういえば私自身も、レース1本目が一番緊張したのを思い出す。
予選でいい手応えがあった時は、前向きな戦略を準決勝、決勝と考えることが出来るものだ。
平泳ぎを終えた時点では日本記録に迫るペース。
いよいよ、決勝。
ここで決めることが出来れば、今回の日本選手権で1人目のリオ内定者となる。瀬戸選手が既に内定しているので、400m個人メドレーは実質1枠を懸けた過酷な戦いだ。
「普通の泳ぎができれば大丈夫なのに、なぜ」
そんな現象がよく起きるのが、オリンピックの選考会だ。いつもと同じ気持ちのはずなのに、何かが違う。その特殊な状況を見据えて、しっかり4年間準備をしてきた選手にしか、オリンピアンになる資格を手にすることはできない。
会場中の視線が、スタート台に上がった8人の選手たちに集まる。そして、独特の緊張感の中でスタートが切られた。
萩野選手は、浮き上がりも予選より動いていた。本人も、最低日本新だと思っていただろう。
「バタフライが少し速すぎた」と本人が振り返った通り、54秒65と好タイムで100mを折り返す。背泳ぎで、またライバル瀬戸選手を突き放した。
平泳ぎを終えた時は、日本記録と0.12秒しか差がない状態。
しかしラスト自由形は少し失速して、4分8秒90の結果だった。日本新までは、1秒29届かなかった。
タイムが表示された時、会場からは「あぁー」という声も聞こえたが、平井伯昌コーチは、「今日は萩野を褒めたい」と話した。
平井コーチの中にも、不安と期待が混在していたのが透けて見える一言だった。