内川が「なかなか打てない」と評する理由。

「力が抜けたようなフォームから右手が前に出てくる。あれは打ちづらい。僕らプロのバッターは、たとえ150キロでもそれなりの力感のあるフォームで投げてくれば、合わせることができます。でも、千賀の場合は体（投球フォーム）の勢いとボールの勢いが比例していない。あれに変化球が加わるんだから、なかなか打てないピッチャーだと思いますよ」

　今年、千賀は左手の使い方を変えた。その効果が表れている。

　昨年までは投げに行く際のグラブの位置が顔の高さほどにあった。一見すれば、躍動感のあるフォームに思えるが、一旦上を向くような状態から投げ下ろせば体のブレ幅は大きくなる。その分だけ右肩と右腕への負担も増す。

　一方で今年は左腕が肩のラインに沿うように、そしてマウンドの傾斜と平行になるイメージで前に出す。かつてのホークスのエース右腕、斉藤和巳の投球フォームに近い。体のブレ幅が小さくなる分だけコントロールも安定する。

「1年間、先発として戦うためのフォームです」（千賀）

　また、右腕を自分で振りにいくのではなく、体を上手く使うことで自然と右腕が振れる。千賀はそのように表現する。

「一番下からのスタート」だった。

　キャンプ中の練習試合のイーグルス戦、そしてオープン戦のタイガース戦とジャイアンツ戦にすべて先発で登板し、計11イニング無失点。被安打7、奪三振11、与四球1つのみと好結果を残している。

　しかし、工藤監督は手厳しい。

「パ・リーグには150キロ近い球を投げる投手は他にもいる。しっかりコントロールができないと、2回り目や3回り目で捉えられてしまう。結果だけ見れば満足してもいい。でも、彼のポテンシャルからすれば、もっと高い目標を持ってやってほしい」

　期待の裏返しだ。そして、千賀自身もしっかり自覚をしている。

「僕は一番下からのスタートでした。だから、どんなに苦しい練習でも、どれだけ厳しい言葉を浴びせられても、僕は不満に感じたことなんてありません。もしドラフト上位で自信を持ってプロの世界に入っていたら、途中で挫けていたかもしれませんけどね」

　ビリから、日本一のチームのエースになる。その夢を実現させるスタート地点がこの'16年の開幕だ。