野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER
泥にまみれる高山俊と板山祐太郎。
阪神の輝ける未来は二軍キャンプに。
posted2016/02/17 10:50
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph by
NIKKAN SPORTS
思わず箸を持つ手が止まってしまった。
2月、高知・安芸の昼下がりは「どろめ丼」を食べるのを日課にしている。いきなり余談で恐縮だが「どろめ」とは土佐の方言で、イワシの稚魚のこと。ゆでたものが「ちりめんじゃこ」になる。名前は泥の中で目だけがギョロリと光ることに由来するともいう。近くの海でとれた珍味を食べきることなく、プレス小屋から客席に駆け下りる。
仕方ない。メシよりも野球だ。目の前で、阪神のドラフト1位・高山俊がバットを振り始めたのだ。
軸がまったくブレず、頭の位置は変わらない。弓で矢を射るようにトップの位置を保ち、力強い打球を連発する。しかも、どんな球でも同じ打撃フォームを再現する。
通算349本塁打を放ち、現役時代にミスタータイガースとして君臨した掛布雅之二軍監督も「ただの打者ではない。20、30本くらい打てる潜在能力がある。ちょっと、俺の想像も上回っているけどね」とうなる。キャンプの時期にありがちなマスコミ向けのリップサービスではない。
評論家時代、選手達を冷静に批評し、球場で厳しい視線を送っていた今岡誠二軍打撃兼野手総合コーチも高評価する。
「手や腕の使い方が柔らかくてバットのヘッドが利いている。軸回転のキレもあるし、今の段階でも20本塁打以上、打てる力がある。触れ込みと全然違う。いい意味でね」
レジェンドの目に留まった高山のスター性。
高山は明大での4年間に131安打を放ち、東京六大学リーグの通算安打記録を48年ぶりに塗り替えていた。誰もがシュアな打撃が売りのヒットマンを思い描くだろう。しかし高山はそんな前評判を覆すかのように、スラッガーのような飛距離を連発している。
「掛布」を書くつもりで安芸に来たのだが、高山が誰よりも存在感を示している。プロで何年もメシを食べてきた同僚がかすむほどの衝撃なのだ。
断っておくが第3クールに入っても、高山は練習の正規メンバーではない。毎朝、報道陣に配られるメニュー表を見ると野手の中に「(9高山・51伊藤隼)」と別枠で記されている。昨年10月に右手有鉤骨を骨折したため、慎重にトレーニングを行ってきた。制限付きであっても、得体の知れない雰囲気を醸し出す。
何なのだ、このスケールの大きさは……。二軍キャンプの臨時コーチを務めた江夏豊も指導を終えて総括する際、目立った選手を問われてこう話した。
「初日のミーティングで一番前に座って質問してきた明治の子。なかなか、いい面構えしとる。スター性もある。そういう雰囲気を持っている」
目と目で話せば分かる。
高山の大物感は、一流の琴線にも触れた。通算206勝193セーブを挙げたレジェンド左腕の指摘は興味深い見立てだろう。