野球クロスロードBACK NUMBER
金子千尋が歩む完全復活への道のり。
自分に言い聞かせる「焦ってないよ」。
posted2016/02/16 10:50
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
NIKKAN SPORTS
オリックスの金子千尋が2016年のキャンプで初めてブルペンに入ったのは2月7日。一軍投手陣で最も遅かった。
変化球を交えて31球。金子本人が「自分の想像とかけ離れた球ではなかった」と言っていたように、まずまずの初ブルペンといったところだろう。
ところが、2日後に入った2度目のブルペンでは内容が芳しくなかったらしい。この日も変化球を織り交ぜながら前回を上回る60球を投げたものの、「よくなかった」と自己評価は低かった。
たった2度のブルペンで、金子の状態を示す明暗が顔をのぞかせた。ただ、そういった現状があるとはいえ、金子は悲観していないはずだ。昨年オフに彼が話していた言葉からも、その背景を垣間見ることができる。
「理想はあるのかもしれないですけど、そればかりを追い求めて今の自分が見えなくなってしまうのが嫌なんで。その時の状態を見ながら、『じゃあ、今ならどういうことをすればいいのか』と考えるようにしています」
オフに右肘手術し、7勝に終わった2015年。
2014年に沢村賞を獲得した金子は、翌年に万全を期すべくオフに右肘の手術に踏み切った。しかし'15年は開幕から出遅れ、9月に右肩も痛めたことで7勝に終わった。「悔しさしか残らないシーズンだった」と、金子は昨季の自分をそう述懐していたものだ。
前年に故障などで不甲斐ないシーズンを送った投手というのは、その多くが翌年の春季キャンプで数多くブルペンに入り、相応の球数を投げるものだ。コンディションの良さをアピールする、故障した箇所が万全であることを証明する。投げ込む背景はそれぞれあるだろうが、根底にある感情はきっとひとつ。焦りだ。
同じ轍を踏まないと言わんばかりに、良好な状態を誇示し続けなければならないわけだが、金子にもそのような意識は確かに存在する。
リハビリ期間中だった昨年オフ、金子はこうも言っていた。