松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
松山英樹が闘いの外で見せる“表情”。
ごくフツーで、少々シャイな若者。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byGetty Images
posted2016/01/14 10:50
世界のトップで戦う姿と、冗談を言いながら笑う姿。どちらも松山英樹23歳の本当の姿なのだ。
「僕は切り替えがうまくいかないから」
饒舌な語りに耳を傾けていると、松山の観察眼の鋭さが伝わってくる。
たとえば「今年はミスしてもあんまり怒らなくなったよね?」と問いかけたときのこと。
松山は、昨春に池に向かってクラブを放り投げて問題視されたローリー・マキロイと、ポーカーフェイスで淡々とプレーするアダム・スコットを即座に引き合いに出し、こんなふうに答えた。
「本当はいつでもクラブを投げたいです。ローリーみたいに。でも、ローリーはスカーンって池にクラブを投げても、そのあとすぐにアンダーパーで回ったりする。その切り替えが凄い。僕だったら、クラブを投げちゃったら『わー、やっちゃった』って後悔して、ズルズル落ちる。逆にアダムは、イライラを全く顔に出さないところが凄い。
僕が楽に行けるのはローリータイプ。でも僕は切り替えがうまくいかないから、それならアダムタイプのほうがいいのかなって。だから結構、必死に(怒りを)隠してます」
周囲の選手を眺め、採り入れるべきものは採り入れて自らの糧となす。そうやって「目で見て盗む」ことに松山は長けている。観察し、分析し、判断を下し、実行に移す。それができるだけの冷静さや余裕を持ち合わせている証だ。
米ツアーフル参戦1年目で早々に初優勝を挙げたが、2年目の昨季は何度も優勝に手を伸ばしながら未勝利。それでも焦らず冷静さを保てているのは、松山がどこまでも腰を据える覚悟を決めているからだ。
体重より、年齢よりも松山を大きく見せるもの。
インタビューの最初と最後に、英語の上達の話をした。2013年全米オープンに初出場した当初から「英語もやりたいっす」と言っていた松山に「英語はどう?」と尋ねると、「あんまりうまくなってないけど……10年後に出来たらいいっすね」。
なるほど。少なくとも10年は米ツアーでやるつもりなんだなと思った矢先、「日本に帰るつもり無いんで、僕」と松山は言い切った。
「日本のファンのために(試合出場で一時的に)帰ることはあっても、自分が帰りたいとは思わない。ヨーロッパなら、ヨーロッパに行きます」
そこまで考えているのかと念を押すと、松山は大きく頷きながら言葉を続けた。
「考えてますよ。上手くいかないときは絶対に来る。でも来たら来たで、そのときは下(下部ツアー)でやるつもりです」
素顔はフツーの若者なのに、米ツアーで戦う姿はどっしりと大きく見える。体重も増えているし、年齢も増えていく。けれど、体重以上、年齢以上に松山を大きく見せているものは、きっと彼のこの覚悟なのだろう。
インタビューからの帰り道、そんなことを想った。