サムライブルーの原材料BACK NUMBER
最後の最後に見せた「意思のクロス」。
藤春廣輝が応えたハリルの要求とは。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2015/11/27 10:40
ガンバで1年目から存在感を発揮してきた藤春。スピードとクロスは日本屈指のサイドバックだ。
一度はチームメイトの米倉に席を奪われた。
意欲溢れるこの左サイドバックは、継続して招集されるだろうと思えた。長友佑都が復帰した6月の代表戦では招集されなかったものの、国内組で臨んだ8月の東アジアカップで復帰を果たす。初戦の北朝鮮戦で先発起用されたのを見るにつけても、国内組では序列が高いことが見てとれた。
北朝鮮戦は代表定着に向けた大事な試合ながら、連係面、パスでのミスが目につき、何より消極的だったのが気になった。試合は1-2で敗戦。残り2試合は先発から外れ、ベンチを温めるしかなかった。ハリルホジッチの信頼を勝ち取るまでには至らなかった。
3戦目の中国戦で左サイドバックに入ったのは、ガンバ大阪でチームメイトの米倉恒貴だった。球際の戦いを制しながら積極的に攻め上がっていく彼のほうに指揮官は目を留めたわけである。米倉は9、10月の代表戦でも続けて招集された。2人はフィジカルが強く、アグレッシブに闘えるという特長が共通しているだけに、右利きの米倉が抜擢されるというのはつまり、藤春への物足りなさとも受け取れた。
代表定着の目標はあっさりと崩れた。
ハリルが会見で要求したことを成し遂げた。
簡単にチャンスはめぐってくるものではない。それに一度、期待に応えられなかったとなると、指揮官を再び振り向かせることは容易ではない。
それでもACL、Jリーグ、ヤマザキナビスコカップと連戦をタフに戦っていく様を、ハリルホジッチは評価していた。
11月の代表メンバー発表会見で、彼は藤春の選出についてこう語っている。
「(代表チームに)戻ってきた藤春は米倉から席を奪ったと言える。今回の試合では良いセンタリングが必要になる。彼の左サイドの駆け上がりとセンタリングに期待している」
代表に定着したいという思い。
このチャンスを逃がしてしまえば、きっと次はないだろうという思い――。
ハリルホジッチが会見で要求したことを、最後の最後で成し遂げた。
きっといろんな思いが、最後、彼を前に向かわせ、スピードを活かして駆け上がり、良いセンタリングを上げさせたに違いない。