サムライブルーの原材料BACK NUMBER
最後の最後に見せた「意思のクロス」。
藤春廣輝が応えたハリルの要求とは。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2015/11/27 10:40
ガンバで1年目から存在感を発揮してきた藤春。スピードとクロスは日本屈指のサイドバックだ。
固い意志がこめられたクロスだった。
だが、決して、追い込まれて切羽詰まった気持ちがあのアシストを生み出したとは思わない。
むしろ、「悔いが残らないように」と臨んだ代表デビュー戦の心境を、試合のどこかで取り戻したのではないかと筆者には思えた。
グループEで勝ち点ゼロのカンボジア相手にオウンゴールの1点だけではあまりに寂しすぎる。試合状況、代表経験の少なさ、アウェー、自分の置かれた状況……様々な状況を考えると、藤春に焦りが生まれていてもおかしくはない。だが、そうではなかった。あのフワリと浮かす技ありのクロスを、本田に送り届けたのだから。
彼は自分の力をすべて出し切ったわけではない。
試合後、ハリルホジッチの表情を見ても、試合内容に対する不満の色は強い。最後のアシストは良かったとしても、藤春のパフォーマンス全体を通せば指揮官が納得していない可能性はあるだろう。
しかしながら、自分の力を信じて、最後に出し切ろうとした。悔いがないように、必死で。
代表定着という目標。
簡単ではないからこそ、追い求める甲斐がある。
固い意志がこめられた、いいクロスだった。