ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
「スイングのことだけ考えてないか?」
バッバが石川遼と2人だけで話した内容。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byAFLO
posted2015/11/18 10:50
“変人”“泣き虫”など異名が多いバッバ・ワトソンだが、面倒見のよさも備えていた。
「自分のスイングのことだけを考えていないか?」
だが日本で大観衆を引き連れながらプレーする石川を見て、ワトソンは強い違和感を覚えた。
「いつも自分のスイングのことだけを考えていないだろうか? 形にこだわり過ぎたり、スイング云々に取り組み過ぎたりするのは良くない。それでゴルフの面白さを感じられるだろうか? 自分がもともと持っている技術を認めて、どういう風にコースを攻めようかという考え方を優先してもいいんじゃないだろうか。僕には君のスイングが悪いと思えない」
石川にとって、まさに図星といえる指摘だった。
体の前で両手を80cmほどに広げて言う。「当時の俺は“ココ”だけしか考えていなかった。『スイングが良くならなければ、スコアも良くならない、上には行けない』と思っていた。でもバッバは真逆でしょう。打ちたい球を打てれば、スイングなんて気にしない」
練習場ではもちろん、試合中もスイングの出来ばかりに固執し、スコアメークに関してはどこか他人事に構える態度は、かねて石川の周囲でささやかれていた問題だった。
だがそれを面と向かって指摘され、訥々と諭されたことは「いままでなかった」経験だった。
注意欠陥障害に苦しんだワトソン。
「対極にいる選手からのアドバイス」と石川はいうが、バッバ・ワトソンは紛れもなく世界中のスーパースターである。「バッバにとって僕は、彼の下に何百人といる選手のひとり。でも、僕から見たバッバはオンリーワン。そういう人からもらえる言葉はありがたい」
ワトソンはこどもの頃から、注意欠陥障害(ADD)に苦しんだゴルファーである。
ラウンド中に注意力が散漫になり、ひとつの物事に長い時間集中ができない問題を抱えていた。アマチュア時代から飛ばし屋として知られたが、ツアー初勝利を挙げた時の年齢は31歳で、遅咲きの部類ともいえる。ゴルフにおけるメンタルゲームの重要性を熟知する彼の言葉は、重い。