スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
書類トラブルでレアルに残った男。
ケイロルが12戦3失点で守護神定着!
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byGetty Images
posted2015/10/29 10:40
レアル・マドリー初のコスタリカ人であり、今季からは1番をカシージャスから引き継いでいる。
レバンテで、そしてレアルで続いた控え生活。
これらの活躍により、早くも「カシージャスの全盛期に匹敵するGK」とまで評価を高めつつあるケイロルだが、憧れのレアル・マドリーで定位置を獲得するまでの道のりは、長く険しいものだった。
母国コスタリカの強豪デポルティーボ・サプリサでの活躍を経て、スペイン2部アルバセテでヨーロッパでのキャリアをスタートするも、加入初年度にチームは3部へ降格。1部レバンテに移籍してからも、2シーズンは控えの立場に甘んじた。
レバンテの正GKに定着した2013-'14シーズンにスペイン国内で、そして直後のブラジルW杯で世界的に評価を高めて念願のレアル・マドリー移籍を果たした後も、現実は厳しかった。チームに合流した時点で正GKは前シーズンに“デシマ(CL10冠)”を獲得したカシージャスと決まっており、ろくにアピールするチャンスもないまま第2GKとしての役割を強いられたからだ。
移籍が書類トラブルで破談になり、そして……。
そして今夏も、自身の意思やパフォーマンスとは関係なく、デヘア獲得を熱望するフロレンティーノ・ペレス会長の一存でマンチェスター・ユナイテッドへの移籍を強いられる予定だった。それがあのような形で(書類がスペインプロリーグ機構に到着するのが数十分遅れた)トレード移籍が白紙となってしまうのだから、人生とは何が起こるか分からないものだ。
1年間の控え生活を耐え続けた末、マンチェスター行きを通告された夜には妻と共に涙したという。それから3カ月、今やケイロルは誰もが認めるレアル・マドリーの守護神となった。
運に恵まれたことは確かだ。だがその運は「デヘアが来るまでのつなぎ」として使われていることを承知の上、それでも諦めることなくアピールし続けてきた彼の執念が引き寄せたものだとも言える。
そんな彼のひたむきな姿勢は、確実に周囲にも伝わっている。