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日本最高のキッカーが語る極意。
中村俊輔のFKはいかに生まれるのか?
posted2015/10/27 16:00
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph by
Tadashi Shirasawa
「フリーキックはその日のコーナーキックやセットプレーからすでに始まっている」
禅問答のようなフレーズから、日本が誇る稀代のキッカーのFK談義は始まった。
J1セカンドステージだけで、すでに直接FK3ゴール。しかも、決めた相手はガンバ大阪の東口順昭、浦和の西川周作、仙台の六反勇治と、いずれもハリルホジッチ監督が選出した日本代表GKだ。J1通算FK20ゴールは歴代最多。レッジーナ、セルティック、エスパニョールでプレーした7年半を除いた数字なのだから、中村俊輔のフリーキックの精度と驚異がどれほど群を抜いているかは明らかだろう。
Number888号に掲載された「中村俊輔のサッカー覚書11 2015年版フリーキック論」では、今シーズン決めたFKの内容とそこに至るまでのプロセスを本人の言葉で詳細に明かしている。本来、シーズン中にこういった“企業秘密”を語るのはタブーなのかもしれない。だが、“誰にも真似できない”という匠ならではの自負があるからこその種明かしと捉えることもできる。
CKも、FKと同様の密度で蹴る。
冒頭のフレーズに戻ろう。中村俊輔の辞書にはCKでも「ナイスボール」はないのだという。ナイスボールで終わってしまっては意味がない。相手GKが出られるか出られないかというコース、高さ、速さを計算しつつ、味方のターゲットマンの走り込む位置、相手DFの対応能力などを考えながら、ピンポイント=“点と点”で合わせることだけを考えている。つまりCKも、直接FKと同じような緊張感と密度で蹴っているというのだ。
セカンドステージ第3節のガンバ大阪戦ではその“準備”が得点につながった。
1-2で迎えた後半49分。最後のワンプレーで得たゴールまで約25mの直接FK。
試合中からたくさんボールにも触り、「セットプレーでボールにスピードが出る感触をつかめていたので、考えていたのは背の高い選手の頭を越えるってことだけ」だった。
192cmのFW長沢駿の頭上すれすれを狙い、鋭く落としたボールは鮮やかにゴールネットを揺らした。このゴールの裏には、家族とたしなむことの多いボウリングがあったという。