野球善哉BACK NUMBER
ヤクルトの“脱セオリー”野球とは。
バント、前進守備、併殺の考え方。
posted2015/10/19 15:00
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
NIKKAN SPORTS
“脱セオリー”
そんな戦いを見たセ・リーグのCSファイナルステージだった。
今や真中満監督の代名詞になった、送りバントを多用しない攻撃的スタイルもその一つだが、CSの戦いの中で見られたのは、セオリーを度外視したヤクルトの新しい野球だった。
特に衝撃を受けたのは、第1戦の4回表、巨人が1死二、三塁と攻めた時のヤクルトの守備陣形だった。
日本の野球では通常、ランナー三塁で2死でない場合は前進守備を敷く。満塁のケース、一、三塁のケースではチームの方針、試合展開によって異なる時もあるが、無死三塁や1死三塁、無死二、三塁、1死二、三塁のケースは前進守備になることが多い。
ところが、1死二、三塁だったこの時、ヤクルトの遊撃手大引啓次がほぼ定位置で守ったのである。大引がその理由を明かす。
「守備位置はベンチからの指示です。ランナーが二、三塁で常にそうしているのではなく、あの場面では(その陣形を)選択したということです。ベンチの意図は、2点目を取られたくないということだったと僕は受け止めています。バッターは亀井さんでしたし、前進守備をして、ヒットゾーンを広くするとそこに打ってくる選手。それを防ごうということでした」
先制点を奪われることよりも、2点目を守る。
結果、この守備位置は功を奏する。亀井は大引への小フライへと終わり、後続も断ち、無失点に抑えたのだった。
この試合は、坂本の2点本塁打などが飛び出し、最終的には巨人が勝った試合だったが、ヤクルトがあの場面でとった守備陣形に、セオリーに縛られないスタイルを感じたものだった。
なにせ、4回表の場面は0-0だったのだ。
先制点を与えたくない場面であるはずなのに、1点を失うことを恐れなかった。
ヤクルトが見ている先にあるのは、今までとは違うものなのかもしれない。そう思わずにはいられなかった。