野球クロスロードBACK NUMBER
トミー・ジョン後の「潰れる」覚悟。
ヤクルト・館山昌平が帰ってきた。
posted2015/09/15 10:40
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
NIKKAN SPORTS
「2年間、時が止まっていました」
右肘のトミー・ジョン手術(側副靭帯再建手術)から814日ぶりの一軍登板を果たした6月28日の巨人戦。ヤクルトの館山昌平はいつものように穏やかな表情を浮かべていた。
5回途中4失点と勝ち投手にはならなかったが、チームが一枚岩となって勝利を掴む姿勢を目の当たりにし、試合後の顔とは裏腹に、ベンチではクールと称される男が人知れず涙を流していたという。
その「涙の復帰登板」を経て臨んだ7月11日のDeNA戦では、1019日ぶりの勝利を手にした。復帰以来ここまで8試合に投げ5勝2敗、防御率3.32(成績等は全て9月13日現在)。2年以上、一軍のマウンドから遠ざかっていた投手としては、十分すぎる数字である。
館山が戻ってきた。
チームやファンが手放しで喜ぶのは言うまでもない。しかしその反面、こんな危惧も自然と抱いてしまうはずなのだ。
怪我は再発しないのだろうか、と。
3度の手術、151針もの手術痕。
館山という選手を語る際、どうしても怪我というキーワードがつきまとう。それほど、館山は故障に悩まされ続けてきた。
振り返れば、最初にトミー・ジョン手術に踏み切ったのは、プロ入りしてから間もない2年目の2004年だった。それから、肩関節、股関節に異常が見つかるたびにメスを入れた。'13年の開幕直前にも2度目のトミー・ジョン手術を行ったが肘の状態は芳しくなく、翌年に「万全の状態で投げたい」と3度目の手術を敢行。彼のこのような決意は、全身に刻まれた151針もの手術痕が訴えかけている。
「常に全力で」
その信念を貫くのもまた、館山という投手なのだ。
8月30日の阪神戦。館山はその想いをはっきりと口に出した。
この試合、館山はたびたび得点圏に走者を置きながらも、5回4安打1失点と粘り強く投げ、打撃でも3ランを放ち勝利に華を添えた。