松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
自分以外のことには不満を言わない。
松山英樹が欲する、優勝と12億円。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph bySonoko Funakoshi
posted2015/09/09 10:40
ティショットもアイアンも、松山英樹のショットは確実に上向いている。豪快なショットが放たれるたびに、観衆から「マツヤーマ」の声が飛び交った。
自分以外のことについて、文句は言わない。
実を言えばこの日、松山のリズムや集中を多少なりとも乱した出来事が、いくつかあった。スタート直後の2番では、フェアウェイからの2打目のバックスイングの途中で、隣の1番からギャラリー男性の「ゴー、リッキー!」という大声が上がり、松山はバランスを崩しながらクラブを振り降ろした。それでもボールはほぼまっすぐ飛んでいき、グリーン左手前の花道へ。パー5だったことも幸いし、結果的にはバーディーを奪ったが、ダブルボギー以上を叩く惨事になっていた可能性も高かった。
しかし、松山は自分の技量やプレーぶりに文句を言うことはあっても、自分以外のこと、たとえばコースや何かの決まりごと、組み合わせや他選手に関することに対しては、不平不満を言わない。最終日の2番での出来事を「あの声はひどかったね。スイング乱れたよね」と尋ねても「仕方ない。リッキーだったから」。
最終日に松山と同組で回ったのはダニエル・バーガーという地味な選手。驚くほど神経質で、ギャラリーのわずかな声や動きにも過敏に反応し、仕切り直す。そのせいで進行のスピードはどんどん遅くなり、松山&バーガー組は、7番でスロープレー警告、9番ではオン・ザ・クロック(計測開始)になった。
それでも、松山は自分から不平不満をついに言わなかった。「プレーに影響はあった?」と尋ねられて初めて小さく頷いた。だがそれでも文句は言わず、「ゴルフをしている限り、1人じゃない限り仕方ない」。
「そりゃ、魅力っすよ。10ミリオン!」
米ツアーで2シーズン目を終えようとしている松山は、いつの間にかすっかり大人になり、そして我慢強くなっている。何が起ころうとも、焦らず、怒らず、苛立たず、目指すは優勝。プレーオフとか、最終戦進出とか、そういうことより何より、やっぱり目指すは優勝。欲しいものは、優勝の二文字だけ。
「ねえねえ、松山くん。でもさあ、10ミリオンも魅力ではないのかしら?」
どうしても聞いてみたくて、聞いてみた。
「そりゃ、魅力っすよ。10ミリオン! そりゃあ、魅力っすよ」
本音がそうであってくれて、なぜだか妙にほっとした。
「来週は優勝争いがバッチリできるぐらいにして入っていきたい」
優勝の二文字と魅力の10ミリオンを目指し、今季残り2試合で松山がかけるラストスパートが、もう今から待ち遠しい。