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「あの日調子がよかったわけでは」
岩隈久志が振り返ったノーヒッター。
posted2015/08/26 10:30
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by
Getty Images
清々しい笑顔だった。
8月12日のオリオールズ戦で今季大リーグ4人目、ア・リーグの投手としては3年ぶりのノーヒッター(無安打無得点試合)を達成したマリナーズの岩隈久志はその2日後、遠征先のボストンでこう言った。
「試合後、すぐにボストンへ移動だったので、実感が湧かなかった。チームメイトは祝福してくれたけど、ニュースとかも見れないですし」
メジャーリーグの遠征移動は、ほとんどの場合試合終了直後だ。ゆっくりと寛ぐ時間など与えられることなく、チャーター機の待つ空港に向かうためのバス(もちろん、チャーターだ)が出る。それまでの短い間に選手たちは取材対応を行い、食事を済ませ、荷造り(野球道具のみ。他の荷物はすでに預けてある)をし、シャワーを浴び、着替えを済ませる。
岩隈のノーヒッターは日本人としては野茂英雄(1996年、2001年)以来2人目、実に14年ぶりの快挙だった。試合終了後は日米のメディアに引っ張りだこだった彼には、試合を振り返る暇すらなかった。
「名を残せたのは光栄です。メールの多さとか、いろんな人が祝福してくださったことで、あらためて実感が湧いてきた感じです」
「あの日がとくに調子が良かったというわけでも」
13日はチームのオフ日。14日のボストンでは日本の公共放送、地元のテレビ局、日本の報道陣、アメリカの報道陣と、ノーヒッターを実感するには充分すぎるほどのラインアップで取材攻勢をかけた。
「中学生の時、1回あったぐらいですかね」と岩隈。自分にはあまり縁のない記録だと思っていたらしい。「練習試合ですけどね」と付け加えて、笑う。
「ノーヒットノーランなんて狙って出来るもんじゃないですから、運ですよ。あの日がとくに調子が良かったというわけでもありませんでしたし」
彼自身の言葉を借りれば「1つ、1つのアウトの積み重ねの結果」が大記録に繋がったようだ。
「とにかく回の先頭打者を抑えることや、ストライクを先行させることを心掛けてました。その結果がノーヒッターだっただけだと思います。あの日も狙ったところよりもズレたり、引っ掛かったりする球が結構、ありましたから」