ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
21歳で22カ国を巡る旅人ゴルファー。
川村昌弘の「英語はダメ」な生き方。
posted2015/05/20 10:40
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
Getty Images
「直行便で7時間ちょっとですからね。近いですよ。もう“近所”です、近所」
4月末、インドネシア・ジャカルタでの試合を終えて帰国した川村昌弘は、日本ツアー・中日クラウンズの会場で屈託なく笑っていた。
「でも来週はちょっと遠いですよ。20時間かかりますから」
日曜日、最終ラウンドを終えた川村は名古屋からその足で東京・羽田へ向かい、深夜便でドバイへ飛んだ。中東で3時間の経由を経て、目的地に着いたのは翌月曜日の夜半過ぎだった。
長旅の到着地は、モーリシャス共和国。アフリカ大陸の東、南半球に位置するマダガスカル島からさらに東、インド洋に浮かぶ小さな島国だ。
東京都ほどの面積しかない、人口130万人のリゾートアイランド。ゴルフの大会は、こんな場所でも開かれる。欧州ツアー、アジアンツアー、サンシャインツアー(南アフリカツアー)3団体の合同開催による今年の新規大会だった。
今回の遠征でキャディを任されたのは父の昌之さん。渡航前には「便の変更ができない(比較的安価な)チケットなので、予選は通過してもらわないと……。週末にやることがなくなってしまいますよ」と笑っていたものだが、当の息子は5位タイの成績を収めた。
けれど仮に、決勝ラウンドに進めずに週末の仕事がなくなっても、愛息はそれほど暇を持て余すこともなかっただろう。
6月にやっと22歳になる彼は、いまや日本で屈指の旅人ゴルファーなのである。
中学生で訪れたフランスでの大会に魅了され……。
5歳でゴルフを始めた川村のハートが打ち抜かれたのは、中学生の時だった。
2007年、スイスとの国境沿いのフランス・エビアンで行なわれたジュニア大会。青空とのコントラストが美しいアルプス山脈を望む雄大な景色とコースに、思春期の心はすっかり魅了されてしまった。当地で年代別のカテゴリー試合で優勝した川村は、その副賞として、翌週の米女子ツアー・エビアン選手権のプロアマ戦に出場。メジャー7勝のベテラン女子プロ、ジュリ・インクスターと一緒にプレーした。
同じ組には、今年米男子ツアーの新人として注目を集めているジャスティン・トーマスがいた。さらにロープの外には、プロアマ出場を逃したある少年の姿があった。今年4月、マスターズを制したジョーダン・スピースである。「結構レアですよね。いま考えるとスゴいメンバーと一緒だった」と笑う川村。米国期待の星とは、ずいぶん前に接点を持っていたのだ。