セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
レアルが困惑した「予想外の展開」。
ユーベは王者に何を仕掛けたのか。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2015/05/08 10:50
セリエAでの優勝を既に決め、CLに全力を注ぐユベントスがホームでレアル・マドリーを退けた。リーグで得点王を走り、CLでも7ゴールを決めている絶好調のテベスがこの日も大仕事をやってのけた。
テベスが今大会7点目となるPKで突き放す。
56分、ユーベがレアルのCKを凌ぐと、2人のFWがカウンターへ向かう。FWテベスは、レアルのゴール目指して疾走した。
DFカルバハルから倒されて得たPKを、テベスは自らゴール真ん中に突き刺した。昨年までにCLで挙げた得点はマンチェスター・U時代の計6点だけだったテベスが、今大会だけですでに7点目を挙げた。今、テベスは新たなキャリアハイの時期を迎えている。
再びリードを許したアンチェロッティは、63分にFWチチャリートを投入して4-3-3へスイッチ。この変化を機に、現王者は本格的に攻勢へ転じた。64分と66分に続けてチャンスを逃した後もレアルはボールをキープし、ユーベのゴール前に何度も迫った。
ただし、64分にDFバルザーリを入れたユーベ守備陣は、それ以降実質5バックを敷き、レアルの分厚い攻撃をはね返し続けた。68分の接触プレーで上下のユニフォームを替えるほどの大流血を負っても、DFキエッリーニは交代しようとしなかった。
濃密な94分間の後、PA内へ放り込まれたMFクロースのFKを、GKブッフォンががっちり両手の中に収めたとき、タイムアップの笛が鳴った。C・ロナウドもGKカシージャスも、レアルの選手たちが一様に困惑の表情を浮かべていた。
「理想と伝統、そして戦術の研鑽が我々にはある」
ユベントスは、現王者とのセミファイナル初戦を2-1で獲った。会心の勝利だった。
「2戦のうちの1つが終わっただけ。まだ『勝った』と思うべきじゃない。レアルは今も世界最強のチーム。今夜、自分たちはいい試合をしたと思うけど、ベルナベウでは完璧に近いゲームをする必要がある」
レアルの怖さを肌で知るFWモラタは、試合後も笑顔を見せなかった。彼の思いは、指揮官アッレグリを筆頭にユベントスの全員が共有している。
「(先勝したからといって)勝ち抜けの確率は考えない。我々のアドバンテージはごくわずかだ。決勝へ行くためには、マドリードでも1点か2点取れなければ相当厳しくなるだろう。だが、私は信じるよ。(決勝戦の)ベルリンへ行けると」
指揮官は、期待に応えたMFストゥラーロやセカンドボールを拾いまくったMFビダルをはじめ、汗をかいた中盤の選手たちを殊更称賛した後、こう付け加えた。
「しばしば“セリエAは今やへぼリーグに成り下がった”と耳にするが、それは嘘だ。確かに最もスペクタクルではないかもしれないが、最も厳しく、勝つのが難しい、それがセリエAだ。理想と伝統、そして戦術の研鑽が我々にはある」
それは、イタリア王者としての矜持だった。