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頂上対決と伝説の行方。
~メイウェザーvs.パッキャオを占う~ 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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photograph byAP/AFLO

posted2015/05/02 11:00

頂上対決と伝説の行方。~メイウェザーvs.パッキャオを占う~<Number Web> photograph by AP/AFLO

メイウェザーとパッキャオの一戦は、ラスベガスにあるMGMグランド・ガーデン・アリーナで行なわれる。入場料総額は7400万ドル、ケーブルテレビの有料放送などを加えた興行総収入はボクシング史上最高の4億ドルが見込まれている。

実績と人気が乖離する「マネー・メイウェザー」。

 一方のメイウェザーは、帽子やTシャツに《TBE》の文字を大書している。The Best Ever(史上最高)の頭文字で、47戦47勝無敗の成績を見れば、威張りたくなる気持ちもわからなくはない。

 実際、相手に打たせない技量にかけてはメイウェザーの右に出る者はいない。速い足と速いカウンターを武器に相手の動きを読み切るボクシングを見ていると、「史上最高のディフェンシヴ・ファイター」という言葉が反射的に浮かぶ。

 ただ、この勝ち方が人気の足を引っ張っている。端的にいうと、メイウェザーは「ピープルズ・チャンプ」ではない。若いころは、ジョン・ディリンジャーの配下だったギャングの名をもじって《プリティ・ボーイ・フロイド》と呼ばれていたが、ある時期からは《マネー・メイウェザー》の綽名が定着した。極端にいうと、彼は「大衆に好かれない花形ボクサー」の道を選んだ。いやむしろ、人々の憎しみをモチーフにしてチャンピオン・ベルトと金を積み重ねようとした。一撃必殺のKOアーティストではないという特性も、大衆に受けない要因のひとつだろう。

ハイテクの富裕層対ブルーカラーの英雄、という構図。

 こんな事情があったせいか、メイウェザーには「不敗ではあっても無敵ではない」という印象が強い。負けたことはなくても、真の勝利は得ていないのではないか、という印象だ。いいかえれば、彼は伝説を完成していない。もし完成させたければ、パッキャオとの対決を避けて通るわけにはいかない。逆にパッキャオ側は「俺に勝たなければ、おまえは無敵とはいえない。戦わなければ、怖がって逃げたことになる」という無言の挑発をちらつかせる。構図でいうと、ハイテクの富裕層対ブルーカラーの英雄。イメージ的には、王者メイウェザー対伝説の破壊者パッキャオ。

 この心理戦では、パッキャオのほうが有利だろう。ファイトマネーの分配比率が3対2(たぶんメイウェザーが2億ドルで、パッキャオが1.35億ドルになりそうだ)ということもあって、パッキャオ側には「勝てば劇的な伝説、負けてもグッド・ルーザー」という両建てが可能になった。一方のメイウェザー側には「なにがなんでも勝って、伝説を完成させたい」というプレッシャーがかかる。この差が、試合にどう影響を与えるか。

【次ページ】 メイウェザー有利も、パッキャオが止まらなければ……。

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