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ロッシがマルケスの転倒を誘った?
ライバルとの「確執」という悪癖。
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2015/04/25 11:00
今季2勝目を挙げたロッシ。ランキングでもトップに立ち、レース後はまさしく喜色満面の様子だったが、この先は若き王者の逆襲が彼を待つはずだ。
「バレンティーノは僕のヒーローだっていつも言ってきた」
今季、ウインターテストから好調なロッシは、「チャンピオンになるためにはマルクの前でゴールしなくてはいけない」とマルケスをターゲットにした発言を続けて来た。
対してマルケスは、「ロッシとのバトルは楽しい。ものすごく盛り上がるからね」といいう発言を何度もしている。
そして、これがロッシとバトルする今季初のチャンス到来となったのだが、なにがなんでも勝ちたいロッシと、そのロッシとバトルして勝ちたいというマルケスとの気持ちの温度差が、こういう結果を招いたのではないだろうか。
マルケスは今回の接触事故でロッシのことを尋ねられると、転倒直後の悔しい表情はどこへやら、さばさばした表情で、「バレンティーノは、僕のヒーローだっていつも言ってきた。そして僕は彼からたくさんのことを学んできた」とコメント。
今回の接触が、ロッシのせいだとも自分のミスだとも言わなかった。それだけに、この言葉にはマルケスの気持ちが凝縮されているような気がするのだ。
つまり、最後まで正々堂々の戦いになると思っていたマルケスにとっては、あり得ない結末だった。それが勝つための戦略や抜かれないためのテクニックだったとしても、「まさか、バレンティーノがあそこであんな走りをしてくるとは……」と、フェイントを食ったような気分になったのではないだろうか。
ロッシが過去に繰り返してきた、確執と接触。
振り返れば、これまでロッシは、チャンピオン争いをしたライダーたちと必ずと言っていいほどこうした接触事故を起こしている。
その結果として対決の構図が生まれ、ファンを巻き込みながら、さまざまな形でライバルにプレッシャーを掛けていく。M・ビアッジ、S・ジベルナウ、C・ストーナー、J・ロレンソといった多くの選手との確執を知らないファンはいない。
その昔からロッシは、不仲になるとライバルたちの呼び方を変える。
セテがジベルナウになり、ケーシーがストーナーになるように、ファーストネームで呼ばなくなる。いまはホルヘに戻ったが、不仲時代はロレンソと呼んでいた。
今回のレース後の会見でも、あれだけロッシを慕っているマルケスのことを、これまでのようにマルクと言わず、何度もマルケスと言っていたのが気がかりだった。もしかすると、また、そういう状況にするつもりなのだろうかと思った。