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グランパスのトップはトヨタの社長。
豊田章男新会長、就任の「裏側」。
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byKyodo News
posted2015/04/21 10:50
名古屋グランパスの会長就任会見を終え、久米一正社長とともに笑顔で撮影に応じた豊田章男氏。モータースポーツの印象が強いが、グランパスの試合会場によく現れることでも知られている。
豊田会長とストイコビッチ元監督の間にあった「絆」。
豊田会長がクラブに肩入れする理由は、実はもう一つある。それはいまから5年前に遡ることになる。
2009年から2010年にかけて起きた、アメリカでのトヨタ車のリコール問題。当時トヨタの社長に就任したばかりだった豊田氏はいきなり窮地に立たされた。アメリカ下院の公聴会で問責された際に、涙をこらえながら毅然とした態度で謝罪をした姿を覚えている人も多いだろう。
その騒動の最中で、ちょうど名古屋はJリーグ開幕を迎えようとしていた。当時の指揮官だったドラガン・ストイコビッチ監督は、ガンバ大阪との開幕戦前日、記者陣に向かってこう語った。
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「明日は勝利して、豊田章男社長に勇気を与えたい」
はたして名古屋は勝利し、試合後にピクシーは再度、「この勝利を豊田社長に捧げたい」と話した。
当時のことを回想しながら、新会長は今回あらためてこう述べた。
「グランパスには個人的な思いもあります。2010年3月6日のガンバ大阪との開幕戦。その前日の朝にストイコビッチ監督が、試合に勝って私に勇気を与えたいと語ってくれた。その約1週間前の2月24日。私はリコール問題でアメリカ下院公聴会に出て、トヨタの再出発を誓いました。その後中国を回って、3月2日に帰国したばかりでした。
あの言葉に、どれだけ勇気づけられたことか。当時から監督やスタッフは変化していますが、グランパスという存在自体に変化はありません。もちろん選手補強も含めて、私はグランパスに何かしらの恩返しがしたい。そのために、私自身も努力をすべきです。お金はその手段の一つですが、それ以上に地元に愛されるクラブになっていかないといけません」
経済人としての責任と、クラブへの情熱。
世界的な大企業のトップの視線の先には、意外にも地元の発展と成長があった。プロスポーツクラブは、それを実現する上で重要な組織だと豊田氏は深く認識している。日本を代表する経済人としての責任と、クラブに対する熱い情熱。その2つを重ねあわせて、豊田氏は満を持して名古屋グランパスのトップに立ち、クラブを成功に導いていく決意を示した。
名古屋はJを代表するビッグクラブになれるのか。豊田氏のこれからの一手に、大きな注目が集まる。