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<日本人ランナーに合う一足とは?> ニッポンのシューズ作り最前線を訪ねる。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2015/04/21 10:00
乳酸や筋肉……力が劣る日本人が勝つためには?
「外国人もそうです。ただ、長距離で言えばケニアの選手たちは、小さい時から歩いたり走ったりする時間が長いし、乳酸もたまりにくい。日本選手は乳酸がすぐにたまります。ということは、すぐに疲れるいうことです。筋繊維にしても、彼らは筋肉が柔らかいけど、日本選手はすぐ硬くなる。じゃあ、どないして勝つんですか? 僕が選手に言うとるのは、ギリギリの練習をするしかないんや、ということ。例えば、1カ月1500km。昔だったら走っとったわけです。今、そんな選手はおらんし、やったら故障します」
だから、故障しないようなシューズを履き、練習で悪いところを見つけて直し、弱い筋肉を見つけて強くしていくしかないのだ、と。
「やはり練習の量ですよ。日本選手は素質がないんやから、練習量を増やして外国人に勝つ。自分の足や走りで変えられない部分は、靴でカバーするんです。勝てるところいうたらそういうところしかないわけですから、それを伸ばしていくしかないじゃないですか」
1日目の取材を終え、ホテルに早めにチェックインした。夕暮れ前、明石城趾を3周ほど走ってみる。ご、たい、ご、ご、たい、ご、頭の中で三村さんの台詞を反芻しながら、左右の足を交互に出してみる。ランナーは世界で一番他人の忠告を素直に聞き、行動に移せる人種なのだ。大きな木の根元で白猫がニャーと鳴く。あいつの足はぜったい5対5で動いているに違いない。
アシックス一筋35年の職人が見せた2個の黄色い足型。
ところで、日本人の足ってそもそもどういうものなんだろうか?
翌朝の10時、その漠然とした質問に懇切丁寧に答えてくれたのは、アシックススポーツ工学研究所所員、楠見浩行さん(写真右)だった。
楠見さんは'79年にアシックスに入社、長らくシューズ事業部でラスト(足型)の開発や生産設計を担当、'93年からは様々なスポーツにおける競技別足型特徴を分析し、新ラストの開発に取り組む、この道35年のベテランだ。
今年の2月にリニューアルしたばかりという斬新なデザインの新棟(アシックスがいかに世界を相手に仕事をしているかがよくわかる)の一室で、楠見さんは2個の黄色い足型を取り出し、僕の目の前に並べた。