松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
松山英樹が珍しく見せた「困った顔」。
23歳が探す、大人と子供の最適比率。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byAFLO
posted2015/03/25 10:35
今季のトップ10入り回数でツアー首位に立つ松山英樹。パワーランキング(試合ごとの優勝予想順位)で上位の常連となった彼も、まだ23歳。スタイルを定めるのはまだ少し先でいい。
左手首に急に走った痛み、翌日には消えたが……。
藤本氏と、そんな会話を交わした矢先だった。ラウンド中の松山が左手首を気にする仕草を何度も見せ始め、やがては左腕を振ったり、左肩を回したり。ラウンド後の囲み取材で左手首のことを尋ねられると「プレーに影響はあるけど、このくらいの痛みは慣れている。そんなに気にするほどではない」と答えたが、かなりの痛みに耐えていたであろうことは彼の表情から伝わってきた。
だが、翌日の松山の左手首にはテーピングすら施されておらず、プレー中に痛みで顔を歪めることもないまま彼は第2ラウンドを終え、辛くも予選を通過した。
「今日は全然痛くないっすよ」
昨日はかなり痛かったのかと問いかけた。
「昨日はあんまり痛かったから……」
だから、マスターズ前の調整を兼ねた最後の試合のつもりで予定していた翌週のバレロテキサスオープンを、急遽欠場する手続きを取った。
「でも、これならテキサス出ても全然大丈夫だったっすよ」
松山が珍しく見せた、困った顔。
アマチュア時代は、故障に悩まされることは「あんまりなかった」。だが、プロ転向後は腰や背中、左手首の故障で棄権や欠場を余儀なくされることもあった。今季はそれらの状態が良くなり、棄権も欠場もしていない。しかしパーマー招待の初日のように、急に痛くなったり、2日目のように急に痛くなくなったりもする。
「MRIとか撮っても、腰も背中も手首も何も異常が出ないっすよ。クラブが握れないぐらい、打てないぐらい痛かったときでも何も異常が出ないんすよ……」
だから困ってしまうんです、という顔を松山が見せたのは、きわめて珍しいことだ。それならば、これから2週間のオフで体も手首も休めて、調整してからオーガスタ入りだねと励ました。
「そうっすね……でも、まあ……休んで、やれるんならいいけど……」
消え入りそうな小さな声で、松山がそう呟いた。耳を澄ませて聞き取るのが精一杯の彼の小声の呟きが、妙に胸に刺さった。不安なんだろうな。そう思ったが、それ以上の励ましの言葉が見つけられなかった。