松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
松山英樹が珍しく見せた「困った顔」。
23歳が探す、大人と子供の最適比率。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byAFLO
posted2015/03/25 10:35
今季のトップ10入り回数でツアー首位に立つ松山英樹。パワーランキング(試合ごとの優勝予想順位)で上位の常連となった彼も、まだ23歳。スタイルを定めるのはまだ少し先でいい。
「世界のヒデキ・マツヤマ」に相応しい自分であるために。
大学生でなくなり、米ツアーの新人選手から米ツアー1勝のチャンピオンになった松山。1年前は「日本の松山英樹」にすぎなかったが、今では米ゴルフ界でも存在感を漂わせる「世界のヒデキ・マツヤマ」になった。世界ランクは16位。
その数字、その呼び名にふさわしい自分であるために、いやいやそれ以上の向上を目指して、松山は精一杯気持ちを強く持ち続け、威風堂々とゴルフクラブを振ってきた。
マナーやエチケットの問題で叩かれたこともあったが、真摯に反省して改善もしてきた。
昨年までの松山は日本メディアから取材を受けた際、「別にフツーです」「わかりません」「関係ないです」と、ぶっきら棒に答え、「無愛想」と批判されたこともあった。
だが、今年は答えようとしている。小難しい質問が飛んだときでさえ「うーん」と首を傾げながら考え、どうにかこうにか自分の言葉で語り、「あー、うまく切り抜けた」と笑顔を浮かべたりもする。
身に着けた大人の智恵と、求道者からの距離。
「メディア対応も最近はうまくなったよね」
ちょっぴり褒めたら、「そうっすかねえ」と下向き加減で照れながら、彼なりの考え方を語り始めた。
ある一言を口にしたら、ああ書かれる、こう書かれる。それが嫌で、その一言を言わないようにしていると「ストレスになる」。
奇妙な質問、失礼な質問にいちいち腹を立てていると「それも疲れる」。どっちにしても精神的に疲弊するのであれば、適度に対応したほうが建設的で前向きなのではないか。
「あんまり怒ってても、しょうがない。結局、自分に返ってくるのかなあと思って……」
そうやって松山は、モノゴトに適度に対応する中庸の功を覚えた。それは、ちょうど子供が大人になるときに経験する人間的成長と同じだ。だがそこには、ほんの少し淋しさも漂う。
無邪気で何の迷いも恐れも抱いていなかった子供のころは、何をするにも100%の全力投球ができた。だが社会に出て、ルールや枠の中で、あれはダメ、これは無理、ここはこうあるべきなどと制限や条件が付いてくると、手加減したり、控えたり、恐れたりで、なかなか100%とはいかなくなる。良く言えば、賢くスマートな大人への道。だが、同時にそれは、ピュアな求道者からは遠ざかっていく道なのかもしれない。