松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
松山英樹が、笑顔を取り戻すまで。
無茶でも手探りを止めなかった1年間。
posted2015/01/27 10:30
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph by
AFLO
「安いか、高いか、わかんないっすよ」
松山英樹が当惑気味にそう言ったのは昨年の冬だった。米ツアーはすでに10月から新シーズンが開幕していたが、12月は公式競技が行なわれないオフの時期。一時帰国して11月にダンロップフェニックスで勝利を飾った松山は、12月初旬に再び米国へ戻り、タイガー・ウッズの大会と呼ばれるヒーロー・ワールド・チャレンジ出場のため、フロリダ州オーランドにやって来ていた。
米ツアー本格参戦1年目だった2013-14年シーズンは、ロサンゼルス市内のホテルを一時的な“拠点”にして転戦した松山。だが、2年目となる2014-15年シーズンの本格始動を睨み、このとき松山はオーランドで家探しをしていた。
この地に拠点を置く米ツアー選手は多い。かつてウッズの豪邸があったのはアイルワース。その他にもレイクノナ、ベイヒルなどハイエンドなゴルフ・コミュニティがいくつもある。松山もそうしたエリアを回って物色した様子で、あんなのもあった、こんなのもあったと話してくれていたのだが、そのとき彼の口から飛び出したのが冒頭の言葉だった。
高級住宅地ゆえ、日本円にして何千万円、億を超える物件も多々あったはず。
「安いか、高いか、わかんないっすよ。だってほら、家とか買ったことないし……」
いや、何もここで「松山英樹の家探しレポート」を書こうとしているわけではないのだが、家探しにまつわる彼の言葉を聞いたとき、「ああ、これだな」という確信を得た。
連発した「問題ない」「疲れてない」「大丈夫」。
わからない。知らない。やったことない。当たり前だが、それこそが昨季の松山の現実だった。彼にとって米国は未知の国。米ツアーは未知の世界。とりわけシーズン序盤はどの大会も初めてのコースでの戦いとなり、毎週毎週、彼は未知の18ホールに足を踏み入れていった。
しかし彼は「わからない」「やったことない」とは決して言わなかった。
「コースは練ラン(練習ラウンド)して1回見れば覚えられるんで」
そう、彼はいつも周囲の心配をきっぱりと否定し、「問題ないです」「関係ないです」「疲れてない」「気にしてない」「考えてない」と言い切った。そして最後には自身に言い聞かせるかのように「大丈夫です」。
大丈夫なわけないだろう? 心が揺れることもあるだろう? 技が狂うことも、体が疲れることだってあるだろう? そう思って尋ね返してみても、彼はまるでトラブルフリーのロボットのように「ない」「ない」「ない」と言い続けた。