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10年後にしか分からないことがある。
'04年ドラフト、ダルビッシュの教訓。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/12/26 10:50
怪物として注目されつつも、当時はその性格を問題視する声も多かったダルビッシュ有。東北高からドラフト1位で日本ハム入り、日本を代表するピッチャーへと変身を遂げた。
高校卒の成功率は、大学生&社会人と大差ない。
投手・野手14人の出自の内わけは「高校卒3人、大学卒6人、社会人出身4人、その他1人」である。「確実性(成功選手になるための)のない高校生、計算できる大学生&社会人」という見方ができる半面、「高校生は化けたらでかい」という見方もできる。ならば、即戦力候補の大学生、社会人(独立リーグ含む)を中心にしてチームの輪郭を作り、3年に1回くらい「でかく化ける可能性のある高校生を上位で指名する」という戦略があっていい。ちなみに、'04年の上位2名の指名選手の成功率は次の通りだ。
◇大学生&社会人など……19人中7人(36.8%)
◇高校生……5人中2人(40%)
この'04年は、松坂大輔(横浜高→西武)がプロ1年目から活躍している真っ最中だが、高校卒に対する信頼感は低かった。高校生の上位指名がダルビッシュ、涌井を含め佐藤剛士(広島1巡)、江川智晃(ダイエー1巡)、高橋徹(ダイエー3巡)の5人しかいなかったことからも信頼感のなさがわかる。
しかし、高校卒の上位指名成功率(40%)は大学生&社会人のそれ(36.8%)と実はほぼ同等だ。さらに成功した選手がダルビッシュと涌井を含むので「化けたらでかい」高校卒の可能性をこの年ほど痛感させられたことはない。
日本ハムの山田GMが台湾で見たダルビッシュの素質。
10年前、私がダルビッシュをどう思っていたのかというと、正直これほど化けるとは思っていなかった。2014年夏、「ベースボールドットコム」で山田正雄・日本ハムGMをインタビューしたときのやりとりを読んでほしい。
「(ダルビッシュは)100かゼロかどっちかで中間にはこないんです。僕はもうゼロのほうにきてると思ったものですから。すぐふてくされる、練習をしないという情報も耳に入っていたので。でも吉村(浩。日本ハム球団本部長)さんは『うちのスカウトは行くつもりですよ』と言うんで、『えーっ本当に』とちょっとゾゾッときましたね」
これに対して山田GMはこう応えた。
「僕が心配したのも今小関さんが言った、まさしくそれなんですね。ダルの性格を見抜くために台湾まで追いかけたんです('04年9月に台北で行われたAAA世界選手権)。それがいいところで、あいつのある面を見られたものですから、それで勝負したんですよ」
打たれてベンチに引っ込んだダルビッシュがしばらくしてベンチの前へ出てきてチームを応援する姿を見て「あいつの性格は捨てたものじゃない」と思い直したのだという。1位指名を決心した貴重なエピソードである。