屈辱のスタートから、日本一へ。

　残り1試合。10月2日の直接対決で負けることになれば優勝は絶望的となる。だが、勝てばリーグ制覇。その剣ヶ峰で劇的なサヨナラ打で決めたのが松田だった。そして、阪神との日本シリーズ第5戦でも、松田は日本一を手繰り寄せる決勝打を放った。

　屈辱からのスタート。「優勝候補」と呼ばれながらシーズンでは苦しい戦いが続き、怪我で離脱もした。それでも、普段通りグラウンド内外で元気な姿勢を見せ続けることを心がけ、選手会長としても的確なリーダーシップを発揮し、ソフトバンクを日本一へと導いた。松田は言う。

「こういうことをやったから日本一になった……。それは結果論やと思います。僕は今までたくさん試合に出させてもらって経験を積んできて。そんで今年、選手会長になって。そうやっていろんなものを積み重ねていったからこそ、チームのみんなもついてきてくれたのかな？　って思ってます」

　来季から指揮を執る工藤公康とは、まだ挨拶程度しか会話をしていないそうだ。それでも、卓越した技術論とトレーニング法を持つ工藤監督とは、「理論とか体のケアとか興味があるんで、個人的にもたくさん話をしていきたい」と意欲を燃やす。

「連覇にチャレンジできるのはホークスだけやから」

　そして昨年に引き続き松坂大輔という大物を補強するなど、チームも強化に余念がない。来季も間違いなく優勝候補に挙げられるだろう。だが、屈辱をバネに這い上がったソフトバンクである。「連覇は難しい」といった周囲の目すら大歓迎だと、松田はチームの声を代弁する。

「そこにチャレンジできるのはホークスだけやから。『連覇の確率は何％』とか言われても、そんなデータは昔のことであってね。『連覇』って可能性があるだけで十分！　それをプラスに考えて、楽しみながら戦っていかないともったいないですよ！　だからね、僕、待ち遠しいんですよ、来年のキャンプインが。日本一としてスタートするシーズンで、みんながどんな気持ちで集まるかね」

　国際試合も国内のリーグ戦も、松田にとっては高くそびえ立つ山に変わりはない。

　険しければ険しいほど登り甲斐がある。頂からの絶景を何度も見たいからこそ、リーダーは前を向き、チームを鼓舞し続けるのだ。