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山形は、一発勝負がやけに似合う。
完成度+アクセントでJ1昇格に挑む。
posted2014/12/04 10:40
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
J1昇格プレーオフ準決勝、テレビカメラを前にした石川竜也と山岸範宏の囲み取材が終わると、スタッフの一人がこんな言葉を発した。
「山形のメディアの皆さん、次もありますから、どうか冷静に!」
思わずニヤけてしまいたくなるそんな一幕も、今のモンテディオ山形を取り巻く雰囲気の良さを象徴している。挑戦者に失うものはない。だから迷いはない。目の前にいる相手に対して、ただ全力を尽くすだけ。しかし、それをひたむきに実行して手にした勝利だからこそ、もう一つ先の大勝利をイメージして心躍っても仕方がない。
準決勝のMVPは、文句なしに山岸範宏。
もっとも、スタッフの心配は杞憂に終わりそうだ。たとえメディアが小躍りしたくなるくらい浮かれても、選手たちの表情にその様子はない。絶対的なリーダーにして決勝進出の立役者であるGK山岸範宏は、沸き返る取材陣のゴールに関する質問攻めをうまくいなしながら、何度もこう繰り返していた。
「僕たちはまだ、何も手にしていないので」
ジュビロ磐田との激闘を制し、チームを決勝へ導くゴールを決めたのは、今シーズン途中から守護神の座に君臨するこの男だった。アディショナルタイムに迷いなく敵陣のゴールに駆け上がり、CKをヘディングでサイドネットへ流し込んだ山岸は、しかしそれがなくても間違いなくこの試合のMVPだった。
研ぎ澄まされた集中力と、経験に裏打ちされたポジショニング。さらに36歳にして衰えを見せない反射神経でチームの危機を救ったシーンは、前半だけで実に4度もあった。10分、20分、30分、39分となぜか10分ごとに訪れた“見せ場”でボールを弾き返し、磐田が作りかけたリズムをことごとく遮断した。
後半、絶対的な得点源であるディエゴがピッチに倒れた際にはすかさずチームメートを集めて声を張り、致命傷となりかねなかったエースの離脱を結束力に変えた。「まさか入るとは思わなかった」と振り返るあのゴールがなくとも、山岸は間違いなく、両チームを通じて最もその存在感を際立たせた選手だった。