フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
パトリック・チャンから高橋大輔へ。
ライバルから届いた「ありがとう」。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2014/11/07 10:30
2010年の世界フィギュアスケート選手権(トリノ)。高橋大輔はアジア初、日本人初の世界王者となり、パトリック・チャンは2位となった。
新採点方式に対応できた数少ない選手だった。
良きライバルであると同時にまず先輩として、チャンが高橋をもっとも尊敬しているのは、高橋がISU採点システムの改正という大きな変化を生き延びてきたことだという。
「旧採点システムから新採点システムに移行したとき、すべての選手がその変化に対応できたわけではない。ダイスケはそれを乗り越えた数少ないトップ選手の一人です。才能と能力がなければ、できないことだったと思います」
現在の加点式採点法が導入されたのは2004年の秋のこと。高橋はシニアに上がって3シーズン目と、確かに選手として成長期の真っ最中だった。5歳年下のチャンはまだジュニアでシニアの戦いには参入しておらず、それほど影響を受けていなかっただろう。
世界トップのチャンが高く評価する表現力。
高橋が新採点方式にすんなりと順応できたのは、基礎のスケーティング技術が高かったことと、抜きん出た音楽性、表現力があったことも大きい。スケーティング技術においては世界トップと言われるチャンも、高橋の表現力には一目置いているという。
「ダイスケはぼくが見て本当に楽しめる、数少ない選手の一人です。彼のプログラムからジャンプを全て抜いたとしても、そのスケーティング技術と表現力で十分に楽しませてくれます」
「ダイスケは全てを兼ね備えたスケーター」
中でももっとも心に残っているのは、2008年2月に韓国で開催された四大陸選手権で、高橋が滑ったフリーだという。プログラムはニコライ・モロゾフ振付によるチャイコフスキーの「ロミオとジュリエット」。ここで高橋は264.46という当時の世界新記録を出し、2位のジェフリー・バトルに30点の点差をつけて優勝した。チャンはこの大会には出ていないが、映像で見たのだという。
「あのプログラムは忘れられない。4回転を2回成功させて、最後までものすごい演技でした。ジャンプは力強く、同時にスピードと品格のある素晴らしい滑りだったと思います。ダイスケは世界で数少ない、全てを兼ね備えたスケーターだと思ったのです」