ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
「まだ教えてもらうレベルじゃない」
コーチをつけない松山英樹の“思想”。
posted2014/09/03 10:30
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
AFLO
米ツアー会場の練習場で、ボランティアのスタッフが呆れていた。
「今日も最後までやるんだね」
夕日に向かって打つ――なんて言えばカッコいいけれど、本人にしてみたら、強い西日は打球の行方をくらます邪魔者でしかない。
一心不乱にクラブを振り、大汗を流して歯を食いしばる。松山英樹の8月は、そんな毎日だった。6月に米ツアー初勝利を挙げ、いよいよ待たれるメジャー制覇の瞬間。だがそれは、こちらが勝手気ままに期待を膨らませていたところも大きかった。松山は紛れもなく調子の波の底にあり、不振の真っただ中にいた。
「そのスイングじゃ、そんな球が出るわ」
「なんでこれがコースで出来ないかなあ」
「もう分からん。足がしびれてきた」
小言を並べ、自分のショットに悪態をついてばかり。スマホとデジカメで撮影した動画に目を凝らし、スイングをチェックする日々。ただその姿をキャディバッグ越しに見守る人の中に、専門の指導者と言える立場の人間はいない。頼りは自分の感覚と、キャディ、トレーナーらサポートスタッフたちの目。松山は、トッププレーヤーの中ではいまや少数派と言えるであろう、特定のコーチを持たない選手である。
マキロイ、ファウラー、タイガーもコーチを付けている。
プロゴルファーの活躍の裏にプロコーチあり。両者の関係性は昨今のプロゴルフにおいて、切っても切れない。スタープレーヤーを正しく導く名伯楽の存在をつまびらかにするのは、いまやお決まりのストーリーだ。
ローリー・マキロイは幼少時代からの恩師マイケル・バノンとのタッグで世界を獲り、リッキー・ファウラーは昨年師事したブッチ・ハーモンのもとで目覚ましいスイング改造に成功。先日、ショーン・フォーリーとの関係を解消したタイガー・ウッズの今後からは目を離せない。米国ではフィル・ミケルソンらを支える「パッティング専門」なるコーチも一世を風靡しているのだから、この世界も奥が深い。