マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
叩き上げの優勝校と、松本裕樹投手。
夏の甲子園で忘れられない2つのこと。
posted2014/08/28 11:45
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
夏の甲子園が終わってしまった。
甲子園が終わった途端、関東は早くも秋の気配である。
甲子園が終わって、「夏」が終わる。
激しい季節を一つ乗り越えた安堵と一抹のさみしさ。そんな心持ちの中に秋風が吹き抜けて、なごり惜しさと喪失感もひとしおである。
それほどに、今年の夏はいろいろあった。
豪雨の幕開けに始まって、順不同に挙げていけば、おにぎり女子マネに超スローボール、盗塁に、意味のわかりにくいボーク。誰もが“優勝候補”だと思っていた東海大相模がいきなり負けてしまうと、例年なら早々敗退組の東北・北信越勢の大健闘。
いろいろあって、大阪桐蔭が2年ぶり4回目の全国制覇で幕を閉じた。
先輩たちは、涼しい顔で優勝旗を手に甲子園を去った。
一昨年は絶対的エース・藤浪晋太郎(現・阪神)がいて、去年はプロスキルの大砲・森友哉(現・西武)がいて、それじゃあ今年は誰なんだと問われても、甲子園の6試合で46点、あれだけ派手に打ちまくったのに、ソラで名前を挙げられる選手がいったい何人いたろうか。
しかし、それだから大阪桐蔭は強かった。
昨年のチームから主軸をつとめ、全国区のネームバリューを持った選手はいなくても、彼らはそもそもが中学の“スーパー”ばかりである。
地味でも逸材の彼らがこの1年間、履正社に5回コールドでこっぱみじんにされた昨秋をスタートに、「ヘタだ」と言われ、それを自覚し、その屈辱をバネにして鍛えに鍛えて甲子園にやってきた。
優勝した腕利きたちが、みんなワーワー泣きながら校歌を歌っていたのがその証拠だろう。
一昨年、そしてその1年前に夏を制した先輩たちは、当たり前のような顔で優勝旗を手にし、涼しい顔で甲子園を去っていった。
たたき上げの矜持。
今年の大阪桐蔭には、そんな「称号」を、敬意をもってさし上げたい。
先輩たちは勝って勝って、勝ちまくった。
キミたちはなかなか負けなかった。
いちばん強いこと。それはなかなか負けないこと。そんなことを彼らから教えてもらったのも、この夏の甲子園だったように思う。