野ボール横丁BACK NUMBER
二松学舎、市原勝人監督の後悔。
流れを失った“意地悪なスクイズ”。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2014/08/20 16:20
バントを多用する高校野球でも、4番のスリーバントスクイズは異例。小峯瑛輔は東東京大会で3割6分という打率を誇ったスラッガーだった。
点は入ったものの、スクイズ失敗でリズムが狂う。
二松学舎大付は4回表も反撃の手を緩めなかった。1番・末松佑弥の内野安打で4-4の同点とし、そこからなおも攻め立て、1死二、三塁と勝ち越しのチャンスをつくる。
この場面で市原は4番・小峯瑛輔に対し、2ボール2ストライクと追い込まれてからスクイズを命じる。
「二塁ランナーが足の速い竹原(祐太)だったので、あわよくば2点取れるんじゃないかと思った。竹原じゃなかったら、やってないかもしれませんね」
スクイズは、相手バッテリーに外され失敗する。ところが、沖縄尚学の内野陣が飛び出した三塁走者をなかなか殺し切れず、三塁走者がタッチをかいくぐって生還。予期せず、5-4と勝ち越しに成功した。
ツキはまだ二松学舎大付にあるように思われたが、このスクイズ失敗を境に、二松学舎大付の攻撃のリズムが狂い始めた。5回表には無死一塁から、やはりスリーバント失敗。チャンスをつぶした。
市原が振り返る。
「打ててるときはスクイズをしない方がいいんじゃないかとか、ずっと思ってたんですよ。他の人にも言っていた。ダメ押しのスクイズとか、どこか意地悪なスクイズをすると、成功しても、流れが悪くなることがある。急に向こうの打線が元気になって、逆転されちゃったり。そういうことを何度も経験していたんですけど……」
「意地悪なスクイズ」が野球の神様の機嫌を損ねたのか。
3番手を先発させるという奇策が失敗したにもかかわらず、予想に反し4回までに4点差を跳ね返した。それだけでも上出来だったのに、そこからさらにスクイズであわよくば2点を奪おうとした自分に市原は強欲さを感じ、自ら「意地悪なスクイズ」と表現したのだった。
「あれで野球の神様にそっぽを向かれちゃったのかな」
終盤、再三チャンスをつかみながらも決定打を欠いた二松学舎大付に対し、沖縄尚学は3回から9回まで毎回、送りバントを見せるという地味ながらも執念を感じさせる攻撃で6回に追いつき、9回のサヨナラにつなげた。
試合中、市原は選手にこう話し続けていたという。
「勝ちたいと思っちゃダメだぞ。勝ちたいと思った瞬間、流れが向こうにいっちゃうから。このまま、この流れにふわふわ乗っていこう」
その流れから、足を外すきっかけになったもの。それがあるいは、4回表の4番へのスリーバントスクイズのサインだったかもしれない。