野ボール横丁BACK NUMBER
“超スローカーブ”をもう一球。
東海大四・西嶋亮太の才能と努力。
posted2014/08/19 16:30
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Kyodo News
捕手に視線を送り、軽く顎を上げた。
身長168cmの小柄なエース、東海大四の西嶋亮太の「超スローカーブ」のサインだった。
0-0で迎えた7回表。1死走者なし。山形中央の6番・中村颯(はやて)への初球だった。
推定時速50kmのカーブが宙に放たれる。大きな拍手と大歓声が湧く中、しなった弓のような弧を描いたボールが、ゆっくりと捕手のミットに落ちた。判定は、ボール。
それに対し、打者の中村はバントの構えをして見送った。
「監督には攻めの気持ちを忘れるなと言われていた。黙って見送ると、向こうのペースになってしまうと思ったので、バントをしてやるぞという雰囲気を出して見送りました」
ただ、初戦の九州国際大付との試合では「相手のリズムをくるわせよう」と思って使った超スローカーブだったが、この試合のそれは意味合いが少し違った。
西嶋が説明する。
「前半、コントロールを意識しすぎてフォームが小さくなってしまった。だから、仕切り直しというか、あそこで一度リセットしようと思って投げました」
体の力を抜き、腕を大きく振ることで、頭の中を一度空っぽにした。
9回まで三塁を踏ませない完璧な内容だったが……。
前の試合では4球披露した超スローカーブだったが、この試合は結局、これが唯一だった。
「今日は自分のペースで投げられていたので、そんなに必要ないと思っていました」
130km台中盤の真っ直ぐとスライダーを絶妙のコントロールでアウトコース中心に集め、9回まで4安打無失点。三塁を踏ませない、ほぼ完璧といっていい内容だった。しかし、延長10回に送球エラーが計4つもからみ、二度までも走者を三塁まで進められ、いずれの場面もタイムリーを許してしまった。
「ツメが甘かったというか、最後の最後で、甘くなってしまった……」
試合後、インタビュー台の上で西嶋は涙に暮れた。