勝利したセレソンには、笑顔も涙もなかった。

　一方で、アディショナルタイムを含めて残り約25分という限られた時間の中で、コロンビアのエースはやはり今大会における主役級の存在感を示した。80分に決めた今大会6点目、そのPKを呼び込むしなやかなタッチのラストパスを通す技術とセンスは、おそらくリオネル・メッシにもクリスティアーノ・ロナウドにもネイマールにもないハメス・ロドリゲスだけの武器である。フェルナンジーニョの激しいプレスに最後まで苦しめられたとはいえ、コロンビアの10番はこの試合でも確かな爪痕を残した。今大会における「最高の一人」であることに疑いはない。

　結果だけを見れば、またしてもブラジルは“順当”に勝った。この日最高の仕事をしたのは、涙もろいキャプテンとドレッドのセンターバックコンビだ。彼らは最後まで前傾姿勢を貫き、一歩“前”に踏み込んで戦い続けた。今大会で最も「ブラジルらしい勝利」は、彼らの強烈な「個の能力」によってもたらされた。

　しかし試合後の彼らには、勝利に歓喜する涙も弾けるような笑顔もなかった。ピッチに倒れたエースは、直行した病院で「腰椎骨折」と診断された。ネイマールのW杯はここで終わりだ。しかもチアゴ・シウバが、累積警告による出場停止でドイツとの準決勝を欠場する。

　W杯制覇まで、あと2つ――。おそらく心身ともに満身創痍の状態にあるブラジルにとって、世界の頂点はまだ果てしなく遠い。頂点までのリアルな距離感を把握しているのは、おそらく指揮官だけだ。「W杯で優勝する」ことの難しさと重みを誰よりも深く知るスコラーリの手腕が問われるのは、まさにここからである。