スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
GKの勇気と3バックのスリル。
~日本に足りないものを補うには?~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2014/07/05 10:30
最後はベルギーに屈したが、奮闘が光ったアメリカ代表のGKハワード。
戦い方を変えるという発想の有無が差を生む。
ひるがえって日本の走行距離を見てみよう。コートジボワール戦が10万8258m、ギリシャ戦が10万2032m、コロンビア戦が10万7219m(いずれも90分)。判で捺したような、というか、杓子定規というか、あまりにも代わり映えのしない数字だ。相手によって戦い方を変えるという発想は、このチームにはなかったのか。
いや、なかったのだろう。ナンバーウェブのこのコラムでも北條聡氏がすでにくわしく指摘していることだが、オランダ、チリ、メキシコ、コスタリカの4チームは、3バック、もしくは5バックを採用してめざましい成果をあげた。最も顕著な例は、グループリーグの序盤で、オランダが前回王者スペインを5-1と粉砕した試合だろう。スペインは、チリにも0-2と敗れ、早々と表舞台を去った。
「ティキ・タカの崩壊」とか「ポゼッション・サッカーの終焉」とか、メディアはいろいろと書き立てたが、「エル・ロコ(変わり者)」ことマルセロ・ビエルサが推進したこの戦術は、ペップ・グアルディオラ、ディエゴ・シメオネ、ヘラルド・マルティーノ、ホルヘ・サンパオリらに受け継がれて、すでに赫々たる成果を残している。
クラブ・レベルでいえば、アトレティコ・マドリーの躍進はその最たるものだし、オランダなどは、やはり3バックのメキシコと対戦して0-1とリードを許した際、5-3-2のシステムを4-3-3に変更して、見事な逆転勝ちを飾っている。
「巧くないチーム」が見せたガッツや執念。
こういう応用力や柔軟性が日本チームにあっただろうか。アメリカの体力と勇気、オランダの戦術と個の力、チリの集合的守備と縦の速攻。お手本はいくつもあるが、なによりも歯痒いのは、ギリシャやアルジェリアやコスタリカといった「けっして巧くないチーム」が見せたガッツや執念を、日本代表が勝負の場で示せなかったことだろう。
これは、どうすればよいのか。ハビエル・アギーレの新監督就任で「ハイプレスと堅守速攻」が身近になったと考えるのは楽天的すぎる。4年前にも提案したことだが、体質改善を本気で望むのなら、日本サッカー協会は、先頭に立って「パンパシフィック(環太平洋)選手権」の実現をめざすべきではないか。