ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
ゴルフ界を見守り続ける男が語る、
男子ツアーに足りない2つの「基本」。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2014/04/17 10:30
池田勇太にニックネームをつけるなど、ツアーが盛り上がる工夫を凝らしてきた宮本ムサシさん。
情報量が増え、カリスマ性にはもう頼れない。
「確かにAONだって、そんなことはやっていなかった」と宮本。
「でも彼らにはカリスマ性があって、会場にいるだけで空気感がピンとしていた。でも今は……時代が変わってきているところはありますよね」
大前提としての、AONを越える実績がある選手もいない。そして昨今は、彼らの全盛期に比べ格段に情報量が増えた時代である。インターネット、SNSの普及は、アスリートとファンの関係をより身近なものにした。だからこそ、薄れゆくカリスマ性に頼るのとは違うファンサービスの重要性を説くのである。
そしてもう一つ、宮本が男子プロに注文を付けたいのは、ファンサービスよりももっと基本的なことだ。
「大会の役員さん、スポンサーさんが目の前にいらっしゃるのに挨拶が無かったりする選手がいて……。そこが一番気になるかなあ」
彼の仕事場である1番ティグラウンドのテントには日々、大会を主催するスポンサーの幹部、ツアー関係者が列席している。だがその場を、我が物顔で素通りしていくプロゴルファーを見るたびに、違和感を覚えずにはいられない。
「媚びる」のではなく、プロのアスリートとして。
「トーナメントはスポンサーさんがいないと続けていけない。それこそ今は試合数が減っていて、選手もスポンサーのことを考えないといけない時期。スタートホールで『いつも、ありがとうございます』と一言あれば、スポンサーさんへの印象もかなり違うのでは。ある意味では『プロスポーツ選手だから、態度なんか気にしなくてもいい』という意見もあるかもしれない。でも『もう時代は変わった』という感じはしますよ」
大会の主催者、協賛社の最大の目的は広告露出だ。しかしAON全盛期とは日本の経済事情がまったく違う上に、露出の方法が増え続け、スポンサーが「ゴルフがダメなら他で」と、すぐに乗り換えられるのが今の時代だ。もちろん問題視されているのは一部の選手の姿勢ではあるが、「一事が万事」と、ツアー全体が見限られてしまう危険性もひそんでいる。
宮本が言うのは、ファンやスポンサーに「媚びろ」ということではない。情報が溢れ、スポンサーがお金を出す選択肢が増えた時代だからこそ、ファンサービスの重要性を感じ、プロのアスリートとしての行動を律してほしい。
ファンあってのツアー。スポンサーあってのツアー。プロゴルファーとしての1番ティに立ち返ることも、再興のためには最低限必要なことである。