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<米ツアーに挑む2人の22歳> 石川遼&松山英樹 「勝利は心とともに」
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byYukihito Taguchi
posted2014/03/31 11:50
かつての宮里藍も「仮面」を被ってスランプに陥った。
感情を押し殺して平然を装うことは、「武士はくわねど」を良しとしてきた日本人の気質なのかもしれない。かつての宮里藍もそうだった。米ツアーデビュー戦で「緊張はしません」。負けても崩れても「いい経験になった」と語る無表情な能面だった。が、深刻なスランプに陥り、「最初は無理に仮面を被っていた」と振り返った彼女は、メンタルケアを含めたコーチングで定評のあるピア・ニールソンの門を叩き、復活への道を辿った。
世界に挑む日本人ゴルファーの中でメンタルケアに実際に向き合った選手は、私が知る限りでは宮里、そして宮里美香のみ。男子の世界では聞いたことがない。が、世界を見渡せば、トッププレーヤーの大半が専属のメンタルトレーナーを伴い、クラブハウスの片隅で会話しながらメンタルケアを受ける姿が日常化している。松山も封じ込めた「心」をもっと上手く活かし、故障続きの「体」をもっと上手くコンディショニングできるようになったら、すでに兼ね備えるハイレベルの「技」と相まって、その先にようやく初優勝やメジャー大会での活躍が訪れるのではないか。
シード権獲得が確実な石川と松山はさらに成長できるか。
松山はキャデラック選手権までの今季9試合に出場し、フェデックスカップの480ポイントを獲得。石川はバルスパー選手権までの11試合で496ポイントを獲得。どちらも来季シード権獲得はほぼ確実だ。
2人の未来が揃って明るい今とは対照的だった昨季のレギュラーシーズン最終戦、最終日の夕暮れが、ふと思い出された。松山の今季の米ツアー出場権獲得が確定し、石川の下部ツアー・ファイナル4戦行きが決まったあの日。日本メディアが松山ばかりを取り囲む様子を傍目に会場から去ろうとしていた石川に声をかけた。「4戦目は取材に行くから、そこまで頑張って」と言って右手を差し出すと、石川は固く握り返し、両手で包むように握手をしてきた。そんな石川の握手の仕方の変化が、彼の心の成長を物語っていた。
今季の石川は「スイングのことを考えながらのゴルフはゴルフじゃない」と言うようになった。彼の変化、彼の成長は一層著しくなっている。果たして、これからの松山は、どんな変化を見せてくれるだろうか。それが楽しみでならない。