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<米ツアーに挑む2人の22歳> 石川遼&松山英樹 「勝利は心とともに」
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byYukihito Taguchi
posted2014/03/31 11:50
松山がラウンド後に振り返ったのは「技」限定だった。
出入りの激しい展開を最後にうまくまとめたラウンド後。「どのあたりが苦しく、どのへんで楽になった?」と問われると、「別に苦しいとか思ったことはない。普通にピンを狙って普通に18ホール回っただけ」。
2月20日アクセンチュア・マッチプレー選手権の2回戦で敗北した際、「悔しい負け方だったね」と声をかけると、「別に悔しいとかじゃなく、自分がミスしたので仕方ない。ミスしたあとのリカバリーができた相手が勝っただけのこと。そこだけの差かな」。勝負を振り返るとき「心」の出る幕はないと言いたげだった。
3月6日、キャデラック選手権初日のラウンド後もそうだった。「最初はショートゲームが良くなくて崩れたけど最後はショットで戻せた」と、振り返るのは「技」限定。雷雨中断を契機に流れを好転できたのではないかと問われると「中断中は寝てただけ。流れを変えてやれるなら、最初からバーディー、バーディーで行きたいけど、それでうまくいかないのがゴルフなんで……」。
マスターズや全英、全米にあった「熱」を抑えている?
今年の松山は、心に波を立てず、普通にプレーできさえすれば、それでいいと言っているかのようだ。かつて2度目のマスターズで悔し涙を流したとき、昨年の全米オープン、全英オープンでトップ10に食い込んだとき、空気を通して伝わってきた彼の熱意、燃える想いが、今ではどこかに封じ込められてしまっている。あえて、そうしているのか。望まずして、そうなっているのか。例えるなら、傷つくのが怖いから恋愛をしないと決めた人のように、感情を抑えているように見える。
だが、心が揺れないはずはない。時には、心の揺れによって生じるエネルギーを心の暖炉にくべてみたらどうだろう。平常心が最高の武器とは限らない。普通をスタンダードにしてほしくない。普通を越えてぶつかって、うまくいったら笑えばいい。失敗したら学べばいい。そうやって心が技へ、体へと絡み合う中で戦うのがゴルフだからこそ、世界の一流選手たちはスイングコーチに「技」を、メンタルトレーナーに「心」を、フィジカルトレーナーに「体」を指導してもらうのだ。