セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
天才ディアマンティを中国へ放出!?
金に目が眩んだボローニャの行方は。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2014/02/19 10:45
今季はここまで19試合に出場し、5得点のディアマンティ。独創的なゲームメイクはボローニャにとって欠かせないものだったはずだが……。
現金に目がくらんだ会長が、勝手に交渉を開始。
今冬はひとまず思いを封印し、セリエA残留へ全力を尽くすことを決めたディアマンティは、雪積もるカステルデボレ練習場で、黙々と練習に励んだ。ボローニャは、中国側の移籍金支払い保証が薄いことを理由に、一旦交渉を打ち切った。
ところが、現ナマに目がくらんだグアラルディ会長は、現場とフロントの頭越しに広州恒大と交渉を再開すると、移籍金一括払いのゴリ押しを始めた。2月いっぱいまで開いている超級リーグ移籍市場の間に、どうしても箔のついた一流選手が欲しい相手の弱みにつけこんだ。
年明け早々にピオリ前監督を独断で解任したワンマン会長は「ディアマンティには中国へ行く意志がある」と、勝手に選手の思惑をバラしてしまった。広州恒大はいよいよ交渉に本腰を入れ、ディアマンティには“移籍を受け入れよ”という圧力がかかった。
放出絶対反対の立場をとっていた過激派サポーターも、抗議の矛先をクラブ経営陣だけでなく、心変わりしたように思われたディアマンティ本人にまで向け始めた。
もはや拒否しつづけることは不可能だった。
同点PKを決めた後に右手で作った“L”の意味。
破天荒な言動が嫌われ、ビッグクラブに縁のないキャリアを送ってきたが、そのことに悔恨を見せたことはない。
裕福な家庭の出であることを理由に「ハングリーさに欠ける」と批判されれば、「俺はもともとサッカー界に名を残そうなんて考えたことはない。引退したら、普通の人たちの中で生きるさ」と軽やかに切り返した。
無粋を嫌う天才MFは、志半ばでチームを去る無念を隠し通した。あくまでクールを装い、「あばよ」と言い残して、イタリアを後にした。
今季もボローニャで最後まで戦い続けるのだ、と確信していたはずの21節サンプドリア戦で、ディアマンティは後半ロスタイムに同点PKを決め、1-1のドローに持ち込んだ。
敵地で貴重な勝ち点1をもぎ取った後、彼は顔の前に右手をかざすと、人差し指と親指で「L」の字を作った。“Loser(=敗者)”の“L”。
「敗者はおまえらだ」という痛烈なメッセージだった。
ボローニャがディアマンティの移籍金を金庫に納めたとき、欧州の移籍市場はとっくの昔に閉まっていた。ライバルたちが恐れた天才レフティの穴は埋められない。ボローニャの選択が正しかったか否かは、3カ月後に明らかになる。
真の敗者は誰なのか。ボローニャにとって、ディアマンティ抜きの残留争いは厳しい、の一言だ。