フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
19歳、金メダルは新たなスタート!
羽生結弦、日本男子初の五輪王者。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byShinya Mano/JMPA
posted2014/02/15 13:00
「緊張しました。すみません」と演技後に漏らした羽生だが、表彰台ではさわやかな笑顔を見せてくれた。銀メダルのパトリック・チャン(左)、銅メダルのデニス・テン(右)と共に。
精神的にも、体力的にも過酷な五輪という舞台。
チャンは会見でこう口にした。
「世界のトップアスリートだって、いつも良い演技ができるわけではない。今日みたいに誰がもっともミスが少なかったかという戦いになることだってあります。五輪の戦いというのは、精神的にも体力的にもものすごくきついんです」
そんなプレッシャーの中でも、最後まで崩れることなく羽生はよく踏みとどまった。
会見での震災の質問に、羽生は目を潤ませて答えた。
記者会見では、シカゴトリビューンの記者が羽生にこう質問した。
「3年前に仙台で被災したことを思うと、ここでの勝利にはどんな意味があるか」
おそらく記者は、「明るい話題を提供できたと思う」というような、軽い答えを期待していたのに違いない。だが被災者に対する羽生の心の傷と思いは、もっともっと深かった。真剣な表情でしばらく考え込んだあと、ゆっくり言葉を選びながら話し始めた。
「すごく難しい質問です。僕一人が頑張っても、直接助けになるわけではない。無力感があります」
五輪には普段スケートの取材をしない大手メディアの記者も大勢やってくる。彼らにとって羽生はまるっきりのニューフェイスだ。しばらく被災体験に関する質問が続き、羽生はつらそうに答えながら、目を潤ませた。
「金メダルを取って、ここからが自分のスタート」
「自分にできることは、ないかもしれない。でも荒川静香さんの寄付などにより、仙台のホームリンクを復活させてもらって、今の自分がいる。感謝の気持ちでいっぱいです。金メダルを取って、ここからが自分のスタートだと思っています」
普通は五輪を優勝した直後は、今後の活動は少し考えてから決めると言う選手がほとんどだ。だが19歳の羽生は、早くも次への意欲を見せた。
「次は日本の代表として出場させてもらう世界選手権。ここで優勝できたことで少し気が抜けているかもしれないけれど、世界選手権もすごく大事な試合。勝てるように、頑張りたいと思います」
会見の最後になって、新五輪チャンピオンはようやく笑顔を見せた。