スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
ラシンが何故2年連続降格で3部へ?
とある世界的詐欺師の“アリ地獄”。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byREUTERS/AFLO
posted2014/01/31 10:45
2011年1月、ホームスタジアムでファンの歓声に応えるオーナー就任直後のアリ氏。このときには現在のような事態は想定する者はいなかった。
救世主は、実は世界的詐欺師だった。
しかし、この謎多き男はとんだ詐欺師だった。
彼が経営するウェスタン・ガルフ・アドバイザリー社が、オーストラリアやニュージーランドで経営難に陥っている複数の企業から総額1億ユーロ以上の金を騙し取り、告訴されていた事実がほどなく発覚したのである。
彼がなぜ、見返りの望めない負債だらけのサッカークラブを買い取ったのかは分からない。いずれにせよ、数年前に住んでいたロンドンの高級マンションの家賃を滞納したまま放置しているような男が、オーナー就任時に威勢よく約束した巨額の投資を実行するはずもなかった。
結局彼がクラブに金を落としたのは買収時の一度のみ。その後はありとあらゆる言い訳を並べるばかりで選手の給料すら払おうとせず、次第にサンタンデールに姿を見せることもなくなってしまった。
金は出さない、しかしクラブを売却するわけでもない。
その後のラシンの転落ぶりはまさに悪夢だ。
金は出さない、しかしクラブの売却にも動かないアリに四方を塞がれたクラブは、支払い義務の不履行によるアマチュアカテゴリーへの強制降格を逃れるべく、倒産法の適用を申請。元オーナーのモンタリボ家が持ち株の返却を要求したアリとの裁判も、手続きは一向に進まず3年以上も経営権が凍結された状態が続いている。
その間、責任を問われたペルニアら役員は総辞職。アリはインターポールに指名手配される国際的なお尋ね者となり、ますます所在が掴めなくなっていく。それと並行し、クラブが倒産法の適用下にあるため選手補強もままならないチームは低迷を極め、2シーズン連続で降格する結果となったのだ。
チームが3部リーグの首位を保つ今季も状況は悪化する一方だ。選手たちは昨年9月から、監督スタッフは4カ月、その他職員が5カ月も給料の未払いが続き、クラブが抱える負債額は5000万ユーロに上る。破産=消滅の危険性は着実に現実のものとなりつつある。
そんな状況下だけに、1部クラブを立て続けに破ったコパの8強入りには大きな価値があった。