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<特集・JTサンダーズ(1)> ヴェセリン・ヴコヴィッチ監督 「必要なのはメンタルの強さだ」~新指揮官が語る再生への道~ 

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市川忍

市川忍Shinobu Ichikawa

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posted2013/11/28 06:00

<特集・JTサンダーズ(1)> ヴェセリン・ヴコヴィッチ監督 「必要なのはメンタルの強さだ」~新指揮官が語る再生への道~<Number Web>
昨シーズンはJTサンダーズ、マーヴェラスともにリーグ6位。
再生を目指す両チームは6月、指揮官を刷新した。新シーズン開幕を前に、
チーム再興のキーポイントを新監督に聞いた。

 右手に持ったペンで熱心にメモを取る。練習試合の最中、ヴコヴィッチ新監督がチェックするのは、スコア上には残らない些細なミスや修正点だ。

「まずはコート内でしっかりとコミュニケーションを取ること。そしてミスを減らすこと。ひとりの選手の力ではチームは勝てません。基本的なことですがチームプレー、チームワークの大切さを選手たちには植え付けていきたい」

欧州、アフリカ、アジア各国で幅広い経験を持つ指揮官。

 '02~'03年、セルビア・モンテネグロ監督としてワールドリーグ準優勝、世界選手権4位に輝いた。その後、監督として当時はまだバレー後進国だったエジプトをアフリカ選手権での優勝に導く。アラブ首長国連邦、スロベニア、トルコのクラブなど様々なチームを渡り歩き、今年6月、JTサンダーズの監督に就任。ユーゴスラビア時代にはユース、ジュニア、大学選抜の監督も経験しており、育成から代表チームの強化までその経験は幅広い。

 しかし、実際にコートサイドに立つヴコヴィッチ監督は、輝かしい実績を持つ名将の印象とはかけ離れている。「監督とは、そのチームの選手層や状況に応じて自らが適応するものだ」と語るように、淡々とチームを観察し、メモを取る。練習が終わると数名の選手を個別に呼び、我が子を諭すようにアドバイスを送る。その姿に決して派手さはない。

「特に重要視しているのはセッターです。ですから菅、井上、深津の3人には、いつも“あなたが上げるその一球のトスが勝敗を分けるのだ。自分ひとりの一球ではなくチーム全員の一球だと思いなさい”と話しています」(ヴコヴィッチ監督)

ストレスを乗り越えられるメンタルの強いチームに。

 リベロの酒井大祐は言う。

「特に目新しいことを言ったり、取り入れたりはしていませんね。3カ月間、一緒に練習をしてきて僕が指摘されたのは“トスを上げるときはジャンプトスをしろ”という基本的なことくらいです」

 毎週、休日の前日には2チームに分かれ実戦形式の練習を行なう。5日間、練習を続けてきている選手の疲労が最もピークを迎えている時期だ。

「セルビア・モンテネグロの監督をしていたとき、選手は皆、“自分たちが必ず勝つのだ”という絶対的な自信を持って戦っていました。実際、23対23のような競り合いでも、誰ひとり負けることを考える選手はいませんでした。わたしの理想はそういったチームです。戦略的、技術的に優れたチームであることはもちろん、ストレスを乗り越えられるメンタルの強さを持つチームにしたい」

【次ページ】 17対17の場面から練習試合を始める意図とは?

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