三食見学ツアーBACK NUMBER
古木克明/格闘家
「リングで見せるフルスイング」
text by
芦部聡Satoshi Ashibe
photograph bySatoshi Ashibe
posted2010/12/29 08:00
「不安はあるけど充実してます」とデビューを心待ちに
――元プロ野球選手が顔面に食らったパンチの味――
オフィスへと急ぐビジネスマンが忙しなく行きかう目黒駅の改札に、古木克明さんはラフなジャージ姿でやってきた。肩からは大きなスポーツバッグをぶらさげている。元プロ野球選手にして、現在はデビュー戦に向けてトレーニングに励む総合格闘家のがっしりとした体格は、朝の出勤風景には溶け込まない。
「大塚警察署の柔道場で毎朝稽古をつけてもらってるんです。運動量は野球選手のときよりも格段に増えたせいか、どれだけ食べても太らなくなった。体重も10kgぐらい減りましたし、肉体の変化を実感してます」
デッドボールも顔面パンチも怖くない!?
'98年にドラフト1位で横浜に入団した“松坂世代”の古木さんは'09年にオリックスから戦力外通告を受け、現役生活を退いた。
「トライアウトにも参加したけど、声を掛けてくれる球団はなかった。その時点で野球への未練は断ち切ったけど、身体はまだまだ動く。スポーツで生計を立てたいという気持ちはありました。そんなときに格闘技をやってみないかと誘われて。格闘技のことはほとんど知識もなかったし、あまり興味もなかったんですけど、前例がないのが逆に面白いと思って……。でも、妻を説得するのは大変でしたね(笑)」
こうして新興プロレス団体『スマッシュ』所属の総合格闘家としてリスタートを切ったわけだが、同じスポーツでも野球とMMAでは天と地ほどの差がある。使う筋肉も違う。野球の経験を生かせる場面はあるのだろうか。
「手の指にボールが直撃したこともあるけど、骨折しなかった。生まれつき頑丈なんですかねえ。ボールが怖くないから、踏み込んで打てた。それと同じでパンチやキックに対しても、最初から恐怖心は感じませんでした」
打たれ強さに加えて、格闘技に必要な闘争心が生来備わっていたのかもしれない。