スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
スペイン代表の正FW候補が登場!
“問題児”ジエゴ・コスタの覚醒。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byGetty Images
posted2013/10/01 07:00
マドリッドダービーでセルヒオ・ラモスと競り合う。腕には大きな入れ墨が踊り、挑発的なプレーを繰り返したディエゴ・コスタを観客は何度も批判した。「ディエゴ・コスタはスペイン人ではない!」とのコールも。
敵陣でフェリペ・ルイスがディマリアからボールを奪い、コケが素早くディフェンスライン裏へ短いスルーパスを通す。次の瞬間、フリーで抜けだしたジエゴ・コスタがGKとの1対1を難なく制し、この試合で唯一のゴールを流し込んだ。
9月28日行われたリーガ・エスパニョーラ第7節。13年半にわたるダービー未勝利の歴史に終止符を打った昨季のコパ・デル・レイ決勝に続き、再びアトレティコは敵地サンティアゴ・ベルナベウで宿敵レアル・マドリーを撃破した。
コパ決勝と同じく、この日もマドリーのゴールネットを揺らしたのはジエゴだった。彼はここまでメッシと並ぶリーガトップの8ゴールを挙げ、クラブ史上初の開幕7連勝と躍進するチームをけん引している。
強靭なフィジカルと柔らかなテクニックを兼ね備え、大柄な体格の割にスピードと機動力もある。ディフェンダーを弾き飛ばしながら突進していくパワフルなドリブル突破は迫力満点で、今やアトレティコのカウンター戦術に欠かせない武器となっている。
この2シーズンのうちに課題の得点力も急速に向上してきた。昨季リーガで28ゴールを挙げたファルカオの不在を感じさせず、目玉補強であるビジャの存在すら薄れさせる輝きを放っている彼は、間違いなく現在リーガで最も乗っているストライカーである。
復帰直後、後半戦だけで10ゴールをあげた昨年。
ジエゴがアトレティコと契約したのは2007年、まだ18歳の時だ。それから定位置を掴む昨季に至るまで、彼は長い下積み生活を送ってきた。
入団当時はフォルラン&アグエロが不動の2トップを形成していたため、はじめの2シーズンは2部クラブへレンタル移籍。3年目はバジャドリーにて2部降格を経験し、ようやくアトレティコで開幕を迎えた4年目も僅かな出場機会しか得られなかった。
さらに在籍5年目の一昨季にはプレシーズン中に右膝の前十字靱帯を断裂し、6カ月の離脱を強いられる。復帰後に待っていたのは、EU外国籍枠の不足で選手登録すらできない状況だった。
しかし、ジエゴの躍進はそこからはじまった。1月にプレーの場を求めてラージョ・バジェカーノへレンタル移籍すると、後半戦だけで9ゴールを挙げる活躍で1部残留に貢献。そしてファルカオ、アドリアンに次ぐ第3FWとしてスタートした昨季途中にとうとうアトレティコで定位置を勝ち獲ったのである。